工大生のメモ帳

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【映画】リズと青い鳥 感想

※ネタバレをしないように書いています。

あなたには羽がある

情報

監督:山田尚子

脚本:吉田玲子

HP :『リズと青い鳥』公式サイト

ざっくりあらすじ

オーボエ担当の鎧塚みぞれと、フルート担当の傘木希美は、三年生最後のコンクールに向けて練習に取り組んでいた。そこでの自由曲に選ばれた曲は『リズと青い鳥』。童話を元に作られており、オーボエとフルートが掛け合うソロがあった。

感想などなど

両親を亡くして一人、街の外れで過ごすリズは寂しい日々を過ごしていた。彼女は売れ残ったパンを、森の動物たちに与えて寂しさを紛らわせ、その中でも青い鳥とは特に仲が良かった。

そんなリズは酷い嵐が過ぎ去った湖のほとりで、一人の青い髪をした少女が倒れているのを見つける。リズの献身的な介抱の末に彼女は目を覚まし、二人は一緒に生活することになる。どこか不思議な少女との生活はとても楽しく、いつしか少女はリズにとっての特別な存在になっていた。

しかし、リズは少女が窓から青い鳥となって飛び立っていく姿を見てしまい、彼女の正体は青い鳥だと知ってしまう。……。

これがタイトルにもなっている『リズと青い鳥』という童話のあらすじである(残念ながら架空の童話)。

少女の正体を知ってしまったリズは、最後に少女に青い鳥として生きていくように迫り、青い鳥が大空へと飛び立っていって幕を閉じる。

これらのあらすじと結末を聞いて、どんな感想を抱くだろう。本作における登場人物である鎧塚みぞれと、傘木希美はそれぞれ特別な思いを抱いているらしかった。

 

本映画は、鎧塚みぞれと傘木希美という二人の女子高生の細かな動作というものに、かなり気を遣って描かれている。分かりやすいのは二人が登場してからの冒頭数分。

みぞれが階段で座り、希美を待っている。途中で別の女子高生が現れるが全く気にも留めず、しかし希美の足音にはすぐさま反応を示す。その後、吹奏楽部である二人は共に活動場所へと向かっていく。

希美が通った場所を同じテンポで歩みを進めるみぞれ。希美が触れた場所にはみぞれも触れ、常に目線は希美の後頭部を見ている。これらだけでも希美とみぞれの関係性というものは分かりやすいのではないだろうか。

しかし二人きりの音楽室にて、交わす会話にはどこか違和感というものがある。みぞれの呟いた「嬉しい」という言葉に対して、「私も」と答える希美。その一連の会話には主語がなく、段々と伏し目がちになっていくみぞれの表情から、どうしようもないすれ違いが起こっているだろうことは想像するまでもない。

さらに希美は「(リズと青い鳥の二人は)私たちとなんか似てるね」と口にする。「それってどういうこと」とみぞれが質問することはできず、漠然としてモヤモヤというものが心に残ってしまう。最後まで見ると、意味は分かることではあるが、初見でそこまで想像することは難しい。

この作品を一度見ただけで評価しきることは無理だろう。二度見るべき作品だということを念頭に置いて、本映画は是非とも視聴して欲しい。

 

さて、『リズと青い鳥の二人と、みぞれと希美の二人はどこか似ている』というようなことを考えながら視聴していくことになるように、脚本や台詞、演出によって仕向けられている。

クラスで孤立していた過去を持つ鎧塚みぞれ。

そんな彼女に話しかけ、吹奏楽部に誘ってくれた傘木希美。

なるほど、となると両親を失って天涯孤独の身の上となったリズと、みぞれを重ね合わせているのか。つまり彼女を救い出した希美は青い鳥ということになる訳だ。

事実、作中では何度も何度も「リズの気持ちが分からない」とみぞれは口にしている。最後に少女を青い鳥として解放したリズであるが、みぞれ自身だったら解放せずにずっと手元に置いておくことしかできない、と。手に入れた幸せを手放すことなんてできない、と。

一方、青い鳥と重ね合わされている希美はというと、常にみぞれの一歩前にいて、彼女の行動指針となっているような印象を受ける。

コンクールに向けての練習に励んでいる最中、コーチはみぞれに「音大を受けないか?」と進める。しかし彼女の表情はどこか暗い。

そんな話を聞いた希美が「私も受けよっかな」と言うことで、みぞれは音大進学を考えるようになった。みぞれにとってはコーチの言葉よりも、みぞれの言葉の方が重要で、それが全てなのだとここで分かる。

 

「これが私の愛のあり方」

童話におけるリズの台詞だ。これが本作におけるアンサーという気がする。互いに自身が抱く「愛のあり方」というものに気がつき、みぞれがそれを、音楽を通して伝えるシーンがある。ここが本作の山場であり、大きな転換点だと言える。

そこからの演出やシーンというものが上手い。良い意味で映画的だ。二人の変化というものが、行動の端々(図書館で本を借りるシーンや、待ち合わせでの行動)に現れている。ラストシーンも様々な想像を駆り立てられる。

きっと二人は解き放たれた、ブログ主はそう思う。良い映画でした。

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