※ネタバレをしないように書いています。
どっちを選ぶの?
情報
作者:岬鷺宮
イラスト:Hiten
ざっくりあらすじ
人前で自分を偽ってしまう僕が、恋に落ちてしまった相手は二重人格でした。
どんな時も自分を貫く物静かな転校生『水瀬秋波』
優しくて、どこか抜けた少女『水瀬春珂』
僕は『二人』で『一人』の生活がうまくいくように手を貸すことを約束した。
感想などなど
本作の魅力について語るならばヒロイン、水瀬についての説明から始めなければいけないだろう。表紙に載っているショートボブの女の子が、それである。
可愛い。
……まぁ、それは置いておく。さて、どこから説明すればいいものか。
あらすじでも示した通り二重人格であるために、彼女『一人』について説明しようと思うと、『二人』について説明することになるのだ。とりあえず ”本来の人格” である水瀬秋波から書いていくとしよう。
秋波はプロローグの最初のほうに登場する人格であり、一言で説明するなら「大人しい」といった所だろうか。
口数は少なく、読書家。古い邦画を毎日一本見るほどのほどのマニア。ジャズをこよなく愛している。
では次。生み出された人格、水瀬春珂について。
プロローグでは途中から登場する人格で、一言で説明するならば「憎めない愛されキャラ」という感じがしっくりくる。
口数は多く、常に明るい。おっちょこちょいでどこか抜けている。ドラえもんやクレヨンしんちゃんの映画が好き。
簡単な説明しか書けていないが、とりあえず対照的であるようなことが分かってもらえればいい。
そしてこの物語において最も重要となる点がある。
主人公である矢野が恋に落ちた相手は、自分というものをしっかりと持ち貫こうとする『水瀬秋波』である。しかし、秋波と春珂は外見は全く一緒なのだ。秋波と春珂の距離はないに等しい。
さらにタイトルの意味深な「三角」……これぐらいにしておこう。
水瀬は自分が二重人格であることを周りに隠そうとする。理由は「驚かせたくない」など色々考えられるが、一番大きな理由は「一人の自分に戻るため」であるらしい。一人を演じていれば、いつかは一人に戻れるとか、どうとか。
しかし、隠すことは簡単なことではない。
大きな問題は二つある。
「入れ替わりは一定間隔で起こる」という点と「人格ごとに記憶は共有していない」という点だ。例え会話している最中だとしても、授業中だとしても、食事中だとしても例外はなく入れ替わりが発生する。そして入れ替わった人格は、瞬時に状況を判断し受け答えしなければいけない。
どうにも想像しにくい状況だが、「目が覚めたらいきなり知らないところにいた!」という感じだろうか。自分だって目が覚めて、大勢の人に囲まれていたら逃げ出す自信がある。……うーん、ちょっと違うか。
とにかく、彼女たちはボロを出しまくっていた。
入れ替わりの直後には何事か辺りを見渡し、
入れ替わり直後に話しかけられ驚きの声を上げ、
発表の最中に入れ替わりが起きて呆然と立ち尽くす。
「彼女は二重人格だな。きっと入れ替わりが起きたに違いない」と推理する人間はいないにせよ、疑問を持つ人は出るだろう。何より学園生活に支障をきたす。
ということで矢野は、彼女達をサポートすることを約束し、奮闘していく。
さて、主人公である矢野は何故彼女達を助けることを約束したのか。
理由は実に単純明快「恋に落ちたから」……と言いたいところであるが、それだけではない。
彼はいつも空気を読み、自分を閉じ込めて、自分じゃないキャラクターを演じていた。いわゆるピエロのようなものだろう。誰にも本来の自分をさらけ出さないようにしてきたのだ。
そんな彼の前に現れたのは、二重人格の少女。
”本来の人格” 秋波と、 ”後から出てきた人格” 春珂。春珂は本来存在するはずのない人格であって、そんなことが分かっているからこそ、自分を閉じ込め秋波を演じていた。
そんな彼女を自分と重ね合わせて、彼は助けたいと思ったのだ。
「三角の距離は限りないゼロ」というタイトルがかなり秀逸だと個人的に思う。
三角関係といえば、どうしてもドロドロとしてストーリー展開を思い浮かべてしまう。そして、物語のオチは決まって誰かが損をする。「ニセコイ」の最後で論争が起きたように、誰もが納得することはないに等しい。
本作は違う。誰もが納得できる華麗なオチであると、お約束しよう。