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悪役令嬢って何をすればいいんだっけ 〜破滅フラグは全力で回避します〜 感想

【前:な し】【第一巻】【次:な し】

※ネタバレをしないように書いています。

悪役令嬢として全うするわ!

情報

作者:soy

イラスト:煮たか

試し読み:悪役令嬢って何をすればいいんだっけ〜破滅フラグは全力で回避します〜

ざっくりあらすじ

乙女ゲームの悪役令嬢に転生した……と思われるラノベ好きOLのカーディナルは、そもそも乙女ゲームをプレイしたこともないので何をすれば分からず途方に暮れた。それでもイメージする悪役令嬢としての生き様を全うしようと決め、主人公(と思われる)と攻略対象(と思われる)をくっつけるため悪く振る舞おうとするが――。

感想などなど

ブログ主は乙女ゲームをプレイしたことがない。そのため悪役令嬢物の作品を読んだとて、それがゲームとしてのあるあるなのかの判別はできない。風の噂で「乙女ゲームに悪役令嬢なんて立ち位置はいない」と聞いたこともあるが、それが真実かどうかを確認する気さえない。

なので本作の主人公であるラノベ好きOLのカーディナルが、現世での記憶を取り戻し、自分の立ち位置を客観視した瞬間、「私は乙女ゲームの悪役令嬢ね!」と理解したとて、「そういうものなのね」という理屈は分からないのに妙な納得感だけはあった。

この作品の肝は、『本当にカーディナルが乙女ゲームの悪役令嬢なのか分からない』という点と、『カーディナルが乙女ゲームをプレイしたことがないので悪役令嬢が何たるか分からない』という点にある。

大抵の悪役令嬢ものは、現世でプレイした乙女ゲームの知識を駆使して破滅エンドを回避するために奮闘する。その過程が面白く、最後に掴み取ったハッピーエンドに感動できる。

そこで大事になってくる乙女ゲームの知識がすっぽりと抜け落ちて、破滅エンドが本当にあるかすら分からないという手探り状態で物語は進んでいく。もしかしたら破滅フラグを素足で踏み抜いているかもしれないし、破滅エンディングに向かって駆け足で向かっているかもしれない。

……ただそんな想像は杞憂だったとすぐに分かることになる。

なにせこのカーディナルという女、やることなすことの全てが無茶苦茶なのだ。

 

まずカーディナルという(おそらく)悪役令嬢の設定がとんでもない。

実家の表向きの顔は大貴族、裏の顔は暗殺家業を取り仕切る裏社会のボス。召使いの一人を取ってしても凶悪な強さである。父親も言わずもがな滅茶苦茶に強い。それを適当な発言で看破してしまったカーディナルは、破滅フラグを拳で回避するために、暗殺術の特訓をつけてもらうことに。

これにより、殺しの技術を極めた彼女を、生半可な手段で殺すことは不可能になってしまった。もしも彼女を殺そうとする者がいたならば、父親や召使い達が黙っていないだろう。(おそらくあるであろう)破滅フラグはこうして回避されることとなる。

(おそらく)主人公の攻略対象と思われる第一王子ジュナスは、家が決めた相手であるカーディナルと婚約を結ぼうとするが、学園での物語が始まるより先にカーディナルに婚約破棄を言い渡されてしまう。(きっと)カーディナルとの婚約を振り切って、主人公に抱いた恋心を優先し、カーディナルを追い詰めるはずだった彼は、その役目を終えることとなる。

書いていて訳が分からなくなってくるが、カーディナルがしていることは悪役令嬢がすることではない。「何をすればいいんだっけ?」と可愛く小首をかしげていれば許される所業ではない。

学園編へと突入し、(おそらく)主人公と思われるラブラと対面。

ここからジュナスとラブラが恋を育み、それを妬んだカーディナルからの妨害工作が始まるのだろう。ただ残念ながらジュナスとカーディナルは婚約を結んでいるような、いないような良く分からない関係性なので、嫉妬心など発生しようがない。妨害工作など発生せず、「ラブラちゃん可愛い」とカーディナルの愛情が爆発するくらいだ。

 

この作品には盛り上がりといったものが存在しない。

具体的にどこで破滅フラグを回避したのか分からないし、カーディナルがピンチになるようなこともないからだ。これがゲームならば、「悪役令嬢っぽい人が恋路を応援してくれて、最短経路でハッピーエンドに到達するゲーム」という悪役令嬢という存在を逆張りした何を狙ったのか良く分からないゲームになっている。

タイトルを見る限り「破滅フラグを全力で回避」したらしい。どこで破滅フラグを回避したのか分からない完璧な仕事だったが、それも全て暗殺術を笑顔で習得できるような人間だからできた芸当なのかもしれない。

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