工大生のメモ帳

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我が家のお稲荷さま。 感想

【前:な し】【第一巻:ここ】【次:第二巻】

※ネタバレをしないように書いています。

お稲荷さまがやって来た。

情報

作者:柴村仁

イラスト:放電映像

ざっくりあらすじ

その昔、三槌家にて一匹の大霊狐が守り神として祭り上げられた。名を空幻といい、ありとあらゆる術を操る、たいへん賢しい狐であった。しかし、同時に騒動を好む性格であったため、三槌家の司祭は裏山の祠に封印したのであった。

そして現在、命を狙われた三槌家の末裔、高上透を守るために祠から解封されることに………。

感想などなど

ブログ主は物語を読んでいく際、設定や登場人物の関係性や心情というものを脳内で整理している。

例えば。

魔法というものがあるのであれば、属性の存在や詠唱の有無、科学をベースにしているのか、作品オリジナルの新しい概念が利用されているのか……などなどを推測、または描かれているのであれば脳裏に止めておく。

例えば。

主人公がいる陣営と、主人公達に害をなす敵陣営にそれぞれ誰が所属しているのかを考え、それぞれの陣営の『目的』と『手段』を考えていく。また大抵の物語は陣営がそう単純化できないので、個々の目的というものを理解していくことが重要になってくる。

いつも通り、本作もそのように読み進めていく訳だが、かなり難儀させられた。

理由はいろいろと挙げられる。

 

まず一つに、本作で登場する五行という概念が理解しにくい。五行とは五行思想のことを指し、本来は古来中国の考え方の一つで、『この世界に存在するものは火・水・木・金・土の五つの属性に分類できる』というものだ。

本作における魔法では、この五行における五つの属性を操ることで戦う。属性間には相性というものがあり、明確な優劣というものが存在するらしい。こう聞くと、ゲームみたいで面白いと思われるかもしれない。

さて、ブログ主は本作を読んだにも関わらず、この優劣関係というものを全く覚えていない。

何故か?

戦闘において優劣関係が全くもって関係なくなっているのだ。戦闘は空幻という大霊狐が行うのだが、基本的にチートで色々な技を扱うので、五行の相性関係というものを知らなくとも全く問題がない。本作におけるブログ主が抱いた戦闘シーンの印象は、「なんか強い技を撃ってたら勝った」というものである。

登場人物同士の関連性というものも釈然としない。先ほども書いたように、空幻しか戦闘をしないので、守られている高上透や、兄の昇は背後でなんかワチャワチャしてる子供でしかないのだ。

空幻という狐が騒動を起こした際の防波堤として、行動を共にすることになるコウというボディガードがいるのだが全く戦闘していない(読み返して見たら、ちょっとだけ戦ってた。ごめん、コウ)。

五行という概念が説明された時、「おっ、この概念を駆使して戦闘が行われていくのか」と思って期待すると肩すかしを喰らうことになる。

 

だとすると、本作はどこに着目して楽しむことになるのか。基本的にはキャラクター同士の掛け合いによる、ほのぼのを楽しむことになる。つまりはザ・ラノベ。文章力はラノベの中では高い方に分類されると思うが(飯とか本気で旨そうに書かれてる)。

表紙に描かれていく可愛らしい少女は、大霊幻の空幻が変身した姿である。ちなみに性別は不詳である。男が変身して少女を演じいる世界線と、女が少女に変身して主人公達をからかうという世界線を同時に楽しむことができる優れものである。

騒動を好むということもあり、いろいろとやらかしをするのだが、妙に常識を持っていて、過度に迷惑をかけないようにするというのはポイントが高い。とある事情で護衛対象である透達には従順であるというのも可愛らしい。

そして問題児であるボディガードのコウ。改めて説明すると、空幻が問題を起こした際にすぐにでも封印できるように派遣された強い人である。しかし、まったく強い感じがしない。料理をしようものならキッチンを破壊し、洗濯物を干そうとしても緊張とやらで半日近くの時間をかける。人間社会と隔絶された環境で生活してきたこともあり、電車というものを知らず、お金を払って物を買うという常識もない。

……なんだろう、本作の面白さはコウのことになるのかもしれない。

ちなみに長い間封印されていたはずの空幻も電車というものを知らなかったが、「まぁ、けっこう長い間封印されてたし……こういうのが作られてもおかしくないだろう」という風に受け入れている。歳を取ると、何でも受け入れられるようになるのかもしれない。

こうなると主人公も説明しなければいけない。一言で言うなれば普通の高校生の、高上昇である。ライトノベルの主人公は、なにがしかの特殊能力を持っているものだが、彼は本当に何も持っていない。

強いて言うのであれば、物事を受け入れるメンタルが異常ということくらいだろうか。唐突に「あなたは三槌家の末裔なのよ」と説明される訳だが、何となく気付けば受け入れていて、狐との共同生活を勤しむことになるが、「まぁ、何とかなるか」と受け入れ、騒動が色々と起こっていくことになるが、あまり気にも留めていないような印象を受ける。

物語の主人公というものは、異常なイベントを受け入れるだけの広い心が絶対に必要なのだろう。主人公の活躍に関しては第二巻以降に期待である。

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