工大生のメモ帳

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死神少女と最期の初恋 感想

※ネタバレをしないように書いています。

あなたに残された時間は七日間です。

情報

作者:水城水城

イラスト:しおん

ざっくりあらすじ

「あなたは七日後、刺殺されてしまいます」

唐突に現れた死神と名乗る少女・供花は、そう告げた。

そう言われた主人公は、特にしたいことも思いつかず、いつも通りの日常を過ごす。しかし供花と過ごすうちに、彼女に対して特別な感情を抱くようになるって……。

感想などなど

死神を題材とした作品は数多く存在する。漫画『デスノート』しかり、伊坂幸太郎著『死神の精度』しかり、どの作品でも共通して死が描かれている。この作品もそうだ。

本作では自分が死ぬ日にち、死に方が分かった主人公が、後悔のない最期を過ごすためにもがく物語だ。

主人公は二十歳にもなっていない平凡な大学生である。二十歳……自分より年下なわけであるが、その歳で死ぬことが確定していたら自分は最期に何を望むだろう。

自暴自棄になるだろうか? 自らの死を受け入れることができるだろうか? 狂って他人を巻き添えに死ぬかもしれない。

「そんなことないだろ」という方もいることだろう。しかし、心の底から自信を持って否定できる人間がどれほどいるだろうか。

本作の主人公はどうか。予想に反して、異常なほどに冷静だった。特にすることも思いつかないと、いつも通り大学に通い、平凡な日常を過ごす。

ここで運命のいたずらか。彼に告白する後輩・芳谷が現れる。高校時代からずっと好きだったと、先輩に好かれたいがために目一杯おめかししてくる姿は心に来るものがある。

しかし彼の寿命は残り七日。告白を受けたところで、誰も幸せにならないことは明白であった。

 

供花は死神だ。ナイフで刺されても死なないし、霊体になれば人の目で見ることは叶わない。瞬間移動もお手の物。

しかし見た目は美しい少女であって、手を握れば握り返してくれる。言葉に言葉を返してくれる。

ただ彼女は笑えなかった。下手な作り笑いは不気味でぎこちない。これまで人の魂を刈り取り続けた彼女に、人らしい感情である喜び、怒り、嫉妬、悲しみなんてものはないはずだった。

彼女は主人公と過ごす過程で、人らしい表情を少しづつ見せてくれるようになる。初めて読んだ漫画ネタバレを聞かされれば怒り、創作物上の死神を見て「リアリティがない」と愚痴る。

そんな彼女の変化は、”死神として” 正しい変化なのだろうか。これから先も何人、何千人という死を目撃することになるだろう彼女にとって。

 

主人公は何も目標がない男であった。まぁ、そんな男この世に五万といるだろう。かくいう自分も、これという夢がなかったりする。

そんな主人公は「まぁ特にしたいこともなかったしなぁ」と死期を宣言されても、特に何か焦るわけでもなく、平凡な日常を過ごす……つもりだった。

しかし彼の前に、可憐な微笑である死神・供花と、可愛らしく一途な後輩・芳谷が現れる。平凡な毎日の中、人らしい時折人らしい表情を覗かせてくれる供花に段々と心惹かれ、何度も一途に思いを告げてくれる芳谷の思いを受け取ることもできずに募り続ける罪悪感。

死が徐々に近づいてくる。

彼は最後の最後に望んだ願い。切なくも温かい恋がそこにはありました。