工大生のメモ帳

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灼熱の小早川さん 感想

作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

炎の剣

情報

作者:田中ロミオ

イラスト:西邑

ざっくりあらすじ

飯嶋直幸は人間関係も勉強も、部活動もなんでもそつなくこなす。そんな彼は県内でも有数の進学校へと入学を果たしたのは必然であろう。しかし、何不自由ない高校生活を前に学級委員である小早川千尋が立ち塞がった。

感想などなど

人が集まれば集団となり、それが一つの社会となる。形成された社会にはルールが作られる。ルールには法律のような明確に定められたものだけではなく、そこを支配する空気や潮流というものも含まれてくる。

空気を読むことに失敗した者が爪弾きにされてしまうことは、長い長い学校生活における経験というもので何となく学ぶことだろう。その空気を支配できたものこそが、学園生活の覇者である。

本作はそんな空気に全身全霊で挑む者の物語だ。

 

まずは主人公の人となりというものについて説明したい。彼を形作るものは、『体の良い外面』と、『他人の裏側まで知っていないと人付き合いのままならない臆病さ』の二つである。

『体の良い外面』については説明不要ではないだろうか。クラスや学年に一人くらいいたであろう、学業も部活も人付き合いも全てが完璧な学生というものが。飯島について詳しく掘り下げるならば、学業成績は学年三位(ちなみに一位は小早川さんで、二位はモブである)、テニス部では先輩を押しのけてレギュラーになるほどの実力者、クラス内での立ち場というのも上の方であり、みんなから頼られている存在だった。

さて、おそらく多くの人が気になるのは、『他人の裏側まで知っていないと人付き合いのままならない臆病さ』という長ったらしい文言であろう。説明というのも難しいので、一つ作中でのエピソード……飯島の趣味について語っておこう。

飯島は家に帰ってすぐにネットを開く。そして向かう先はネット上で黒歴史を垂れ流し続けるブログやSNS。それらを漁り嘲笑することこそが、彼の数少ない趣味であった。いやはや、他人に好き好んで語れるような趣味ではない。

しかし、まぁ、褒められたことではないかもしれないが、まだまだこれは序の口である。そこからさらに踏み込んで、クラスメイト達の過去や黒歴史を調べることまでしているという始末。怖ぇよ。

 

タイトルにもなっている小早川さんについても説明せねばなるまい。飯島に習い二つの側面を上げるとすれば、『違反を絶対に許さない正義』と『ブログで愚痴りまくり悪を断罪する』という相容れているようで、できていない二つだろうか。

『違反を絶対に許さない正義』というのは、細かな校則違反の全てを絶対に許さない風紀委員的存在(彼女の場合は学級委員だが)を想像して貰いたい。突如として行われる頭髪検査に持ち物検査、厳しい締め付けにクラスメイト達は恐れおののく。ある種の空気を読めていない行動と言えよう。

対して『ブログで愚痴りまくり悪を断罪する』という行為についてだが、どうやら学校で会った嫌な奴などについて、毎日のようにブログを書いて更新しているようだ。かなり面と向かって強気にいく印象を受ける彼女ではあるが、それだけでは足りずにブログにまでしたためているようだ。

そんな彼女のブログを飯島が特定してしまうことで(偶然ではあったが)。二人の関係性というものは拗れたり何だりかんだりすることで、物語というものが進行していく。

 

空気というものは恐ろしいもので、その場を支配した同調圧力をはねのけられる人間というものは少ない。偉そうに語っているブログ主だって、その他大勢の逆らえないモブの一人に過ぎない。

それが悪いということでは決してないが、その空気が悪い空気だということも得てしてあるということを理解しておかなければいけない。居心地の良いぬるま湯も、気づけば身を滅ぼす熱湯であったということもある。もしくは腐っているという可能性だって否定できない。

本作で小早川と飯島が挑むことになる空気というのは、正しく腐っているという言葉が相応しい。

校則を守る人間なんていなかった。掃除をすることや、委員会に真面目に取り組むという行為が恥ずかしいこととされていた。勉強や部活に取り組んで努力するということも嘲笑される対象となっている。文化祭などのイベントについても同様のスタンスであり、企画なんて考えない。準備なんて参加しない。

だって全てダサいから。

もう学級として崩壊している。そんな空気を改善するということの難しさが分かるだろうか。敵はクラスの全員であり、分かりやすい悪役なんてものもいない。正しく目に見えない空気を掴もうとする行為に等しい。

そんな飯島と小早川さんの戦いが描かれていく過程で、小早川さんをドンドン好きになっていったのは、二人の応援をしていたのはブログ主だけではないだろう。ツンデレの良さというものが分かった気がする。

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