工大生のメモ帳

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さよならピアノソナタ 感想

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作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

つまんない人生頑張って。

情報

作者:杉井光

イラスト:植田亮

ざっくりあらすじ

音楽評論家の父を持つ桧川直巳は、《世界の果ての百貨店》と呼称する粗大ゴミ置き場で、若き天才少女ピアニスト・蛯沢真冬と出会う。そこから月日は流れ、彼女と再び出会うことで彼と彼女の生活は一変していく。

感想などなど

音楽は生活と心を豊かにする。こうしてブログを書いている現在、作業用BGMを洋楽やら何やらを流している。あまり詳しい訳ではないが、ジョ〇ョ経由で知識がない訳ではないという中途半端な人間である。メタリカとか好きよ。

本作では様々なジャンルの音楽関係者の名前が登場する。

有名所で音楽室に掛けられたイラストでお馴染みのベートーヴェンやバッハから、「レット・イット・ビー」や「イエスタデイ」など一度は耳にしたことがある数々の名曲を生み出し続けた伝説的バンド・ビートルズ。「ロックン・ロール」や「カシミール」といった、これまた一度は聞いたことのある名曲をいくつも出したロックバンド・レッドツェッペリンなどの数々の音楽が、文章によって紡がれていく。

作者は元々バンドをやっていたということもあり、その知識量と思い入れというものは相当なものであることが読んでいくと分かる。音楽やバンドに関して語られる知識というのは普通にためになるものも多かった。また、それらがストーリーを理解する上でのギミックとして機能することもあり、読んでいて楽しくなってくる。

 

それぞれの音楽には、それが生まれるまでのストーリーがある。

例えば。

作中でも言及される有名な話として、ベートーヴェンがナポレオンに贈った軍歌の話がある。当時ナポレオンはウィーンに侵攻しており、同時期ウィーンにいたというベートーヴェンは彼がやって来ることを心待ちにしていたのだろう。彼の活躍をたたえるような傑作を作り上げたのだ。

話のオチとして、皇帝に即位したナポレオンに激怒し失望の念に駆られて、彼に対する賛辞を記した表紙を破り捨てたという逸話が残されている。逸話として残っているくらいなのだから、相当な怒りようだったのだろう。

その曲は「エロイカ」という名前で残っている。

他にもビートルズの革命的な話や、あの名曲の裏話などが語られていく。その手の話に詳しい人ならば手垢のつくほどに聞きなじみのある話なのだろうが、あまりその手の話に詳しくないブログ主にとっては、その話だけでも十分に楽しめる内容だった。

 

さて、ストーリーの方に言及したい。本作を一言で分かりやすくいうなれば、『桧川直巳と蛯沢真冬のラブストーリー』である。あぁ、本当に分かりやすくてありがたい。

冒頭で描かれる出会いでは、《世界の果ての百貨店》という仰々しすぎる名前をつけられた粗大ゴミ置き場にて、ゴミ漁り(本人は否定するだろう)をしていた桧川直巳の目の前で、蛯沢真冬がピアノを演奏しているシーンから始まる。

周囲を取り囲む捨てられていった物達が、呼応して震える。若き天才ピアニストによる美しき演奏は、天才と呼ばれるだけの意味があった。

元々、主人公の父親にして音楽評論家にして、変人の父の影響により、数々の音楽を常に聴いているような少年であった。その音楽の中には、彼女が演奏したピアノ曲も当然含まれており、しかも擦り切れるほどに繰り返し聴くほどお気に入りであったらしい。

正しく、その出会いは運命的だったのだ。

それから月日は流れ高校。部活にも入らず、使われていない教室を占拠して音楽を聴くだけの日々を過ごす毎日は、蛯沢真冬が転入してきたことにより一変していく。

まず第一に占拠していたはずの教室が、真冬によって強奪された。まぁ、元々許可をとっていたわけではなく、勝手に使っていただけではあったが。

第二。お嬢様気質で、周囲と壁を作る傾向にあった真冬と周囲との折衝係を担うことになってしまった。面倒ごとを避けようと苦心していた彼にとって、避けられぬ面倒ごとが増えてしまったということを意味する。

第三に、どうにも幼馴染の機嫌がよろしくない。傍から見る分には可愛らしいが、本人にとっては面倒極まりないことなのだろう。

 

音楽が好きな二人の距離を近づけるものは、やはり音楽であった。美しい旋律が奏でる物語は、甘美で切ない。少しミステリチックな雰囲気も相まって、全体的におしゃれな雰囲気を漂わせる。

とても綺麗で、ふと音楽を聴きたくなる……そんな作品であった。

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