工大生のメモ帳

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魔法使いの召使い 感想

【作品リスト】

※ネタバレをしないように書いています。

魔法は人を救うために

情報

作者:陸凡鳥

イラスト:魚

ざっくりあらすじ

由緒正しい貴族の娘だったビアンカは、父母が流行病で亡くなった家を追われ、一人彷徨うこととなる。そんな彼女の元に不思議な手紙が届き、そこに書かれた導きのまま向かって行くと、魔法の存在する別世界へと移動してしまった。そこで魔法使いの召使いとして働くことになり……。

感想などなど

この作品を読んでの感想は、「童話っぽい」という一言に尽きる。なぜそんな感想を抱いたのか? いろいろと考えて見たが、『勧善懲悪』『正義と悪の対立構造の分かりやすさ』にあると思う。

まぁ、そんな難しい言葉を使わずとも、冒頭からして童話っぽい。それなりに一財産を築いた貴族の父母が亡くなったことで、そんな財産その他権力を求める者達に騙され、家を追われて、みすぼらしい格好でトボトボと歩く主人公ビアンカの姿……ほら、童話でありそうではありませんかね?

なさそうですか? そうですか……。

そんな道中、唐突にポストマンから手紙を渡され、その手紙通りに行動すると、不思議な馬車に乗せられ、今いる世界とは思えないような道――勝手に木が避けていく森、割れる湖、割れた湖の中心、その底で止まった瞬間に押し寄せてくる水の壁――などを通り異世界へと行ってしまいます。ほら、なんかこう童話って感じがしませんか?

『不思議の国のアリス』では喋るウサギを追っかけて穴に落ち、地球の直径を遙かに超える高さの自由落下を体験します。それと似たような匂いを、本作にも感じたのです。そうして辿り付いた古風な家では、魔法使いの召使いとして働いていた家政婦メーネがいました。

手紙によって来た者は信用できる、という魔法っぽい理由で召し使いとして働くことになったビアンカ。しかし、これまで甘やかされて育った彼女が、召使いとして炊事、洗濯、掃除といった業務ができるはずもなく、割った皿は二桁に上り、壊した物品は両手で数えられる数を優に超え、仕事に厳格なメーネの気苦労の絶えない日々が続くのでした。

そんな日常の中、エルヴィンの家に忍び込み食料を勝手に貪りまくる謎生命体、後にホルスターと名付けられることとなる輩が仲間になりました。この奇妙奇天烈な生命体がマスコットのようにビアンカについて回るようになるのだが、このコンビ感がたまらない。

そうして仲間が出揃って、ただただ平穏な日常が続いていく……めでたし、めでたし。

というはずもなく、野菜の魔法使いエルヴィンに「野菜の買い出し」やら「家の留守番」やらを任される過程で、魔法を教えて貰うことができるようになり、それが全ての元凶となるということを、このとき誰も理解できる者はいませんでした。

この世界における魔法というものは、どうやら滅び欠けているようで、魔法使いという存在もそれなりに珍しいものとなりつつありました。そんな中、野菜を使って魔法の研究を続けるエルヴィン。その成果をまとめた魔法辞書と、魔法を使えない普通の人でも魔法を扱えるようになる指輪をビアンカに授けました。

こうして魔法を使えるようになった一般人。

だからといって彼女が成長を遂げ、業務も何もかも完璧にこなせるようになった……なんてことはなく、彼女は魔法の扱いでも十回中九回もの割合で失敗を繰り返します。それでも困っている人がいれば、助けようと頑張って、頑張って。

……。

その結果が世界の滅亡とは。

 

世界を救う最終決戦の盛り上がりが最高に好きだ。これまで失敗続きだったビアンカの活躍と、これまで起こしてきたミスが繋がっていく伏線回収の流れは読み応え抜群。そこに『勧善懲悪』『正義と悪の対立構造の分かりやすさ』が詰め込まれている。

分かりやすい、面白い話だった。

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