※ネタバレをしないように書いています。
不思議に満ちた未知の世界を旅する冒険譚
情報
作者:西 条陽
イラスト:細居美恵子
ざっくりあらすじ
空に浮かぶ天空国家セントラルは、何処までも続く世界の全てを知るために各地に調査官を派遣していた。
その調査官であるヨキとシュカは、不可思議な現象を解明すべく、多大なる好奇心を胸に各地を旅していた。
真面目に業務に勤しもうとするヨキ
興味のあることにどこまでも突っ込んでいくシュカ
そんな二人の奇妙で、どこか温かい……そんな冒険譚の幕開け
感想などなど
本作は電撃小説大賞の金賞受賞作。銀賞をとった『錆喰いビスコ』をこれより前に読んでいたわけですが、それが面白すぎて「は? こんなん金賞どんなんねん!?」と思いながら、近所の書店に駆け込み購入しました。
さて、作品全体のイメージとしては「キノの旅」が近いでしょうか。
五章構成で、それぞれの章で文化や技術の違う国や地方を巡っていきます。明確に違うのは主人公達は気ままに旅をしているわけではなく、明確な理由を持っているというところでしょう。
第一章では「国の人口推移の調査」という名目で向かったとある国で、事件に自ら首を突っ込んでいく物語ですし、第二章は「たった七日で砂漠のど真ん中に作られた国」に向かい、その国が生まれた原理や原因を調査します。
そしてそれぞれの国によって文化や技術が異なっていくわけです。しかし、どちらかと言えば技術の方に重きが置かれて区別されています。
分かりやすいのは第四章「電子の楽園」。文字通り電子世界で一日のほとんどを過ごす国でのお話です。
VR……よりも発展した技術。ざっくり説明すると脳に電気を流して味覚や視覚、聴覚に至るまで支配して、最高の料理に娯楽を楽しめるというもの。
その他登場する国や地方ではこんな技術はなく(いや、なくもないのか……)、「プログラミング? 何それおいしいの?」状態です。
個人的に面白かったのは第三章。体が石に変わっていくという奇病が蔓延する村に立ち寄った二人が、自分たちの技術や知識を持って治していきます。しかし持っている薬にも限りがあって、何とか解決策を模索しますが……。
幻想的な世界と、近代世界がうまく融合されていたと思います。
最終章はこれまでの話とは大きく変わってきます。ここで大切となってくるのは「世界の全てを知りたい」という調査官の存在理念。
世界の全てとは何なのか? どこまで知れば全てを知ったことになるのか?
彼らは果たしてどこへ向かっているのでしょうか?
一話一話の完成度が高いです。そして最後シュカに惚れます。挿絵がもっと欲しかったかなぁと思いますが、それを差し引いてもとても面白い作品でした。