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バカが全裸でやってくる 感想

【前:な し】【第一巻】【次:第二巻】
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※ネタバレをしないように書いています。

恋と妄想

情報

作者:入間人間

試し読み:バカが全裸でやってくる

ざっくりあらすじ

小説家になる夢を叶えるために書き続ける小説バカ。才能がないと言われながらも書き続けたが、その才能のタネが開花する兆しは見えない。小説家になった者も、書けなくなった者も。それぞれの小説家が生きている現実の方が、遙かに面白い。そんな小説家達の物語。

感想などなど

本作は数々の『小説バカ』達の小説よりも面白い数奇な体験を綴った群像劇である。本作自体が小説ではないか、というメタ的な突っ込みは捨て置いて、それぞれ小説家になろうと足掻く者、すでに小説家として名をはせた者、小説家として死んだ者、書くことができなくなった者……など数々の小説家が登場する。

例えば。

第一章『バカが全裸でやってくる』では、趣味で小説を書いているが小説家になる才能はないと諦めていた者が、飲み会に乱入してきた全裸男に諭されて、小説家になるために本気になる話である。

小説家になりたいと願って、どれほどの年月を費やす必要があるのか?

どれくらい書き続ければ才能はないと判断できるのか、小説家を志す者にとって喉から手が出るくらいに欲しい指標であろう。とりあえずネットに投稿してみて、誰にも見向きもされない(ブログ主含めた)素人諸君にとって、この作品は心にぶっささる。

それはもう痛いくらいに。

たとえ全裸の男だったとしても、「お前、小説家になれると思うぜ」と言われ、そこから小説家になるための計画を立て、協力してくれる男をどうして嫌いになれよう。心の奥底にあった「小説家になりたい」という夢を捨て去ることがどうしてできよう。

その男の足掻きが赤裸々に列挙されていく第一章。導入としては十分である。

 

第一巻には、この男の辿る末路は描かれていない。書き上げた小説が賞を取ったのか、はたまた落選し夢を諦め社会人として生きていくことになったのか。第二章、第三章と読み進めていくにつれ、本当の主人公は、全裸男だったのではという疑念が、ふつふつと湧き上がってくる。

第二章は小説家としてそこそこ有名になったが、あとがきの内容で炎上していらい筆を置いていた作家が、再び書き始めるまでの物語だ。彼の一人称で展開され、心の中はやさぐれ、ひねた思考はさらに捻くれていく。

しかし、とある少年の読書感想文によって奮起することとなる。彼に必要だったのは、たったそれだけの一押しだったが、その一押しが貰える人間は、そうそういない。誰かに読んで貰えて、言葉を投げかけて貰えることも一つの才能なのではと思う。

第三章は車に轢かれて幽霊となり、それでも小説を書き続ける小説家の話だ。彼女表には一切表に出てこずに――というよりは物理的に出られない姿であるために、覆面作家という形で無心に小説を書き続けていた。

彼女の切ない生き様が、どうにも愛しい。

第四章は知り合いの子供に、夏休みの宿題である読書感想文を書くことを手伝って欲しいと依頼され、イヤイヤながら家に行き、感想文の題材として少年が選んだ小説を読破するという話だ。

事実を淡々と列挙すると、くっそつまらない小説があるが、この第四章は正しくそれだ。小説の中で小説の感想を書いているという劇中劇と言って良いのか分からない構造が完成している。

しかし、これまでの物語を思い浮かべてみると……「あぁ!」という気づきがある。

 

第五章は読んで確認して欲しい。本作における全ての始まりであり終わりともいうべき、集大成の物語となっている。群像劇の醍醐味は、それぞれの視点が交錯し繋がっていくことで感じられる感動だ。

「バカが全裸でやってくる」というタイトル回収は第一章で終わっている。しかし、バカという言葉に込められた揶揄や、言葉の外に込めたかった感情は、全裸である必要性や意味が分かるのは、この第五章である。

個人的に心に刺さる作品であった。

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