工大生のメモ帳

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きっと彼女は神様なんかじゃない 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

無知な神様とのガール・ミーツ・ガール

情報

作者:入間人間

イラスト:フライ

試し読み:きっと彼女は神様なんかじゃない

ざっくりあらすじ

集落の生贄として海に落とされた私は、海の底にある神殿で眠っていた自称神様の少女と出会う。地上に戻った二人は、会話を重ねて互いのことを知っていく。

感想などなど

残念なことにブログ主は信仰している神はいない。海外ではたいそう驚かれるそうだが、これは日本では珍しいことではない。キリストの誕生日を聖夜とし、除夜の鐘を聞きながら年を越し、年始は神社に赴きお神籤を引く。

信仰の形は人それぞれ、国それぞれ、時代それぞれで異なっていく。一つの神しかいない宗教があれば、複数の神がいる宗教もあり。昨今は宗教に対して、良い印象を抱けない事件が頻発しているが、時代と国を築き導いてきた宗教を不要と切り捨てることは、少なくともブログ主にはできない。

本作の世界では宗教と呼べるようなものはない。

『人は水の中でも、空の向こうでも息苦しくて生きられない。大地を愛せ』 という言葉が、主人公のいる部族で語り継がれている教義であり、強いて言うなら自然こそが信仰の対象と言える。

周囲は自然に囲まれ、槍を持って生物を狩る狩猟生活を営んでいる彼らにとって、地震や山火事といった災害は自然の怒りだ。そして、食料を無事に採ってこられることは自然の恵みであり、そのことに感謝し、忘れないようにする。

そんな自然に対する感謝を伝える、もしくは怒りを静める手段として、生贄が捧げられる。

日本神話の八岐大蛇伝説で、クシナダヒメが生贄として捧げられようとしていたように、中国の諸葛孔明が生贄の代わりに饅頭を川に流したように、生贄の存在はたしかにあった。本作の世界も、それと同じような歴史の一つを辿っているのだろう。

そして本作の主人公は、始まって早々に生贄として海に突き落とされる。生贄として選ばれるのは、決まって美女だったりするが(クシナダヒメしか例が出せないのは恥ずかしい限りだが)、本作の場合も例外ではない。

表紙になっている褐色の女の子が、海に落とされた子である。ちなみに彼女が生贄に選ばれたのは、もともとこの部族の生まれではないかららしい。余所者という訳だ。そんな厳しい運命を受け入れ、彼女は海に落ちた。

その先で、まさか神様に出会えるとは思いもしなかっただろう。

 

神様を名乗る少女は、名前をメイといった。

彼女は海の底にある神殿の奥、謎の液体で満ちたカプセルの中で眠っていた。そのカプセルを槍で突いて穴を空け、転がして無理矢理起こした。起きた少女の第一声は「あなた、誰?」という疑問だった。

そこから彼女の語る言葉は、外から来た少女にとってみれば意味不明な内容ばかりだった。「新天地」「船員番号」「船の防衛機能」「昇降機」「エレベーター」といった、この世界にはないものばかり。

この辺りで読者は察する、この少女は地球人なのでは? と。

カプセルや船員番号、船といったワードから想像を膨らませ、彼女は宇宙を旅してきたのだろうと理解する。作中で説明はない(かなり終盤で回想によって色々と説明されるが)。読者に状況を察せさせるような構成になっており、読者は少しずつ世界の構造や歴史というものを理解させられるようになっている。

冒頭から存在する世界に対する違和感、後になって読み返すと納得できる伏線。そこから導かれる希望の一切ない世界だと気付いた時が、この作品における最高の盛り上がりとなる。

この作品を読み終えた時の感覚はなんとも説明しがたい。先ほども書いた通り、彼女らに希望はない。ただ彼女達は必死に生きて、幸せになってくれる。そんな気がする。

不思議な作品だった。

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