工大生のメモ帳

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ちーちゃんは悠久の向こう 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

幽霊を見たい

情報

作者:日日日

イラスト:坂本ヒメミ

試し読み:ちーちゃんは悠久の向こう

ざっくりあらすじ

ちーちゃんは歌島千草は小さい頃から幽霊とか妖怪とかが好きな女の子だった。そんな彼女の隣に住んでいた僕は、いつも怖い話を聞かされてきた。高校生になっても、彼女のそんな怖い物好きは変わらず、幽霊を見たいがために奮闘していた。

感想などなど

皆さんは幽霊がお好きだろうか。そして幽霊に会ってみたいという方はいるだろうか。ブログ主としては、できればそういった怖い体験はしたくないと思っている。ホラー映画で見る分には、「フィクションだから」「映像だから」というネタを知っているからこそ見ることができるのだ。

怖い話を聞いたとして、人はそのネタを知りたがる。幽霊の正体見たり枯れ尾花、ネタが分かってしまえば怖くない。要は安心したいのだ。幽霊なんていない、と。

大抵の人がそうであろう。例外がちーちゃんである。

彼女は怖い話を聞けば、その話に登場する幽霊や妖怪を探し始めるのだ。科学的とかではなく、本当に幽霊や妖怪がいることを信じて調べるという点が大きく違う。彼女はどうしても幽霊が見たいという変わった女の子だったのだ。

そんな彼女とずっと仲良くしていた久野悠斗は、怖い話を聞いて怖がるという真っ当な神経をしている。幽霊を探そうとはせず、非科学的なものは信じようとしない。なるほど、普通である。

だが、ブログ主的にはちーちゃん以上に彼の方が壊れているような気がする。その理由は作中でさらっと描かれる家庭環境にある。家庭内暴力は当たり前、父が母に暴力を振るい、父の稼いだ金は母のブランド品やらパチンコやらに消える。屑同氏は惹かれ合い、屑の夫婦が出来上がった。

当然、暴力や暴言の対象に久野悠斗も含まれる。そんな彼にとって、ちーちゃんは生きていく理由の一つであったのではないだろうか。そんな気がする。

 

二人とも高校生になり、久野悠斗は陸上部に入り走り幅跳びを、ちーちゃんはオカルト研究会に入り学校の七不思議を調査した。それぞれ高校生活というものを、それなりに楽しんでいるらしかった。

しかし、それでも何処か満たされぬ心。久野悠斗の家庭環境はさらに悪化していくし、ちーちゃんは見たい幽霊を見ることが相変わらずできない。

そんな状況を一変させたのは、七不思議の一つ『苔地蔵様』。その調査を進めると、男女の血を捧げることで、どんな願いも叶えてくれるということが分かり、ちーちゃんと久野悠斗はそれぞれ血を捧げた。そこにある怪異の存在を実証するため、どんな願いも叶えるというならば、ちーちゃんにはどうしても叶えたい夢があった。

「――あたしに幽霊を見えるようにしてください」

ここから作品の雰囲気が一変する。

 

この作品で描かれているのは、人の壊し方だと思う。

この作品で描かれる元には戻せないほどの壊れ切った結末は、どうあがいても避けられなかった。ちーちゃんの幽霊や妖怪が好きという特異な性質が変わらない限り、僕の生まれが変わらない限り。そんな性質や生まれは一度死なないと変えられない。

静かに真綿で首を絞めるような優雅な絶望が、この作品には漂っている。

この作品を読んでいる間、「怖い」という感情を抱いたことはなかった。ちーちゃんが語る怪談話はよくあるものばかりであるし、怪異の類に襲われるということもないのだ。作品のジャンル的にはホラーと呼ぶべきではないだろう。

だが読み終えた後の感情は、ホラーを読み終えた後に似ていた。後半で畳みかけてくる人をクリティカルに壊すような展開の数々は、思わずやめてくれと言いたくなる。それ以上は壊れてしまう、と。想像する最悪の展開が次々と起こると思って欲しい。

そんな展開を乗り越えてのラストシーンは、壊れてしまった者達にとっての最適解であるような妙な心地がする。収まるべきところに収まったというような違和感。

やはり不思議だ。これを高校生で書いたという作者の才能に感服である。

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