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りゅうおうのおしごと!10 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※今までのネタバレを含みます。

幼女が増えた

情報

作者:白鳥士郎

イラスト:しらび

ざっくりあらすじ

小学生の将棋大会『なにわ王将戦』にて優勝を目指すJS研の面々、女流名跡リーグ進出をめざすあいの前には謎の女流棋士が立ち塞がり、銀子は地獄の三段リーグで孤独な戦いを始めようとしていた。

感想などなど

第十巻では『なにわ王将戦に挑むJS研』と『あいの前に立ち塞がる謎の女流棋士』と『銀子の三段リーグ』の三つで構成されている。それに付随する形で、幼女が追加されたり、ロリコン疑惑が深まったり――というか八一はロリコンだろう、将来を約束した嫁(ロリ)が増えたりする訳だが、その辺りはばっさりカット。

第十巻を構成している三つのエピソードについて、熱い熱い熱い展開がそれぞれ用意されている。その熱さ、熱量を理解するための背景について述べていきたい。

 

JS研というものを御存知だろうか。度々、八一の家にて一夜を共にする幼女達のことである。犯罪臭漂うどころか、もう犯罪であるような気がする。幼女とケッコンカッコカリしている時点で、もうアレであるため今更だが。

そんな彼の日常というものが小学校の教師に問題視される。当然である。むしろ今まで逮捕されていないことが不思議であろう。

そうして八一に疑惑を向けた小学生教師は、将棋というものを舐めているようであった。いや、正確に言うなれば、将棋に関する知識が全くないと言うべきだろう。将棋には竜王というタイトルがあることを知らなかったし、かなりの体力を消耗する頭脳スポーツであるということも知らず、将棋を遊びと表現している。相手が相手ならば、キレられているに違いない。

そんな相手に対して、八一は身の潔白を証明すべく、色々な行動を取ることになる。例えば、小学校で将棋の授業を受け持ったり、実際の試合に連れて行ったりする。

その疑惑を払拭するための行動の一つとして、幼女達を『なにわ王将戦』という将棋大会へと挑ませる。

その大会において幼女達のライバルとして登場する新たな幼女が、歩夢の妹である神鍋馬莉愛であった。昨年度の小学生大会において、名人の座を獲得した若き天才である。しかし、語尾は「~のじゃ」で、獣耳をつけている変わり者であった。何だろう、大人になってもこのスタイルは貫くのだろうか。もしそうであるならば、真似はしたくないが尊敬に値する。

誰が勝つのか最後まで予想できない幼女達の戦い。見た目は可愛らしく微笑ましいかもしれないが、盤面では命を削るような熱い戦いが繰り広げられることは言うまでもないだろう。

 

『あいの前に立ち塞がる謎の女流棋士』についても説明せねばなるまい。あいは女流棋士になってしまったため、当然だが公式戦というものが行われることになる。その相手こそが、今回のメインである。幼女ではないので安心してほしい。

彼女の名は岳滅鬼翼。あいよりも強い天衣をボコボコにしたことから、その実力は分かって貰えるだろう。小六の頃に男子に混じって大会に参加、女子としては史上初の名人の座を獲得した。さらに小学生女子にして初めて奨励会に参加した。

いわば女性棋士にとっての憧れといっても良い。だからこそ《不滅の翼》という二つ名まで付けられたのだ。

ここで少し考えて欲しい。これまで九巻も出ている「りゅうおうのおしごと」だが、彼女の名前が登場したことはあっただろうか。出たかもしれないが、印象に残っている人はいないだろう。

結論から言おう。彼女はそこから落ちぶれてしまったのだ。多くの人に期待される天才ですら、その先に進むことができない奨励会という地獄……これまでも見てきたつもりだったが、天才だと言われていても、その天才を越える天才もいるのが奨励会という場所であることを実感させられる。

時折、そんな岳滅鬼翼の視点で描かれるシーンが挟まれてくる。そこにあるのは希望に満ちた表情ではなく、悔しさに歯がみし、必死に食らいつこうとする彼女の姿であった。

天才の苦悩……天才が天才に勝つために必要なものは何か? そんな彼女が縋っているものは何か? 考えながら読み進めると、作品の理解が深まるかもしれない。

 

さて、最後に説明したいのは『銀子の三段リーグ』についてである。彼女もそこで地獄を見ていた。

彼女は強い。しかし、それはあくまで女流の間での話だ。ここは三段リーグ、気を抜くと一瞬で足を掬われる。

一試合、一試合による体力の消耗は著しいものであった。元々あまり体の強くない銀子にとっては死活問題である。

そんな地獄であるという条件は相手も一緒である。銀子も相手も、人生を賭けて戦っていた。

勝ち上がるために必要な白星は十四。五試合負けたら、もう上には上がれないという厳しすぎる世界。銀子が誰かに勝つということは、同時に相手の首を絞めるということを意味する。

そんなこと分かってて将棋の世界に飛び込んだんだろ! とお思いの方はごもっとも。しかし、そんな当たり前の事実は意外と気付かないものなのだろう。そして、そんなことを意識してしまった時点で、もう勝つということに執着できなくなってしまう気がする。

この銀子の話については十一巻で書かれていくことになるはずだ。第十巻では銀子が見る地獄の一端、氷山の一角が描かれていく。いやはや、銀子以外にもたくさん応援したい人がでてきてしまい、頭を悩ませるブログ主。

将棋の世界の厳しさというものをまざまざと見せつけられた第十巻であった。皆に幸あれ。

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