工大生のメモ帳

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七つの魔剣が支配する 感想

【前:な し】【第一巻】【次:第二巻

※ネタバレをしないように書いています。

魔に呑まれる

情報

作者:宇野朴人

イラスト:ミユキルリア

試し読み:七つの魔剣が支配する

ざっくりあらすじ

名門キンバリー魔法学校。そこでは魔法の道を究めんとする若人が、やってくる世界でも有数の場所。今年も黒いローブに身を包み、腰に白杖と杖剣を携えた新入生の一人・オリバーは、これから一緒に過ごすことになる学友と親交を深めつつ、桜並木を進む魔法生物達のパレードを眺めていると、突然、オークが暴れ出して――剣と魔法のファンタジーの幕開け。

感想などなど

魔法学校という言葉の響きに、憧れや期待を抱いてしまうファンタジー好きにぴったりな作品を紹介したい。まぁ、そもそもこの記事にたどり着いたという時点で、幾らかの興味を抱いているということは想像できるが。

本作「七つの魔剣が支配する」は超本格的な魔法ファンタジー作品である。

舞台はキンバリー魔法学校。始まりは桜が咲き誇る春である。桜並木を期待と緊張の面持ちで進む新入生の列の横には、一角馬(ユニコーン)や鷲獅子(グリフォン)、トロールといった魔法生物がパレードを形成している。おぉ、正しく魔法のあるファンタジー世界ならではの描写であろう。

そこで交わされる会話というのも、そういった魔法生物がいるからこそ生まれる内容である。「わたしたち人類と彼ら亜人種は、三十万年ばかり遡れば全て同一の種に行く着くの」「人権を認められているのはたっさの三種類。それさえも最近のことで――」「野生のトロール舐めすぎだっての! 知らねぇだろ、あいつら畑を荒らした上にそこでウンコしてくんだぞ! 小山みたいにでっけぇやつ!」

……といった具合に。なるほど、亜人と呼ばれる種族に対する人権問題があるらしい。魔法の存在しない地球でも捕鯨問題やら色々あることを考えると、そういった問題で真っ二つに割れることは必然なのかもしれない。

そういったリアリティが本作の魅力である。魔法のある世界でのそういった人権問題や、コメディアンによる魔法を使ったお笑いの存在、魔法のない国における魔法の扱いといった設定の作り込みや情報の出し方が、とても面白い形で織り込まれている。

 

そんな世界における我らが住む日本は、魔法の広まっていないサムライの国ということになっている。武士としての生き様を貫き、ヒロインにして日本出身のナナオは子供の頃から戦場へと駆り出されている。その身体に幾つも付いた刀傷が、その戦場の凄まじさと、彼女の越えてきた修羅場の多さを物語っている。

そんな彼女は日本に来ていたという魔法学校の教授にスカウトされる形で、遠い遠方の国である英国へとやって来た。日本語で書かれているが、作中の登場人物達は英語で会話しているらしく、英語に不慣れなナナオが会話に詰まっているシーンも見受けられる。

そんな古き良き武士である彼女は、先ほども書いた通りヒロインであり主人公ではない。主人公はオリバー=ホーンという何でもそつなくこなす万能型人間であり、自分のことよりも他人のことで怒ることができる優しい人間である。

彼視点で展開されていくキンバリー魔法学校での日常――魔法の研究の果てに死ぬ者も珍しくなく、追求するためならばどんな犠牲も辞さない覚悟と狂気が入り乱れている。その狂気が、どこかハリーポッターのような児童文学を想起させる世界観と一線を画す物語を作り出していることを、ここに記しておく。

 

あらすじにも示した通り、第一巻は入学してから学校に馴染んでいくまでの期間を描いている。その間に、パレードにいたオークが大暴れしてオリバーの友人であるカティ=アールトが怪我をした事件を追っていく。

亜人――遠い昔に人間とルーツを同じにしたとされている種族で、その多くは言葉を持たず、野生では畑を荒らすような野獣として、調教によってある程度の労働力として重宝されている。

そんな亜人がパレードの最中に暴れ出した――そこに事件性を見出すことは無理筋であるように思われるかもしれない。なにせオークは知能が低い。言語は話せず、暴れ出した理由を聞いたところで意味をなさない。

しかしながら、そこには予想よりも遙かに根深い狂気が潜んでいた。

その事件を追いながらも、亜人にまつわるような事件は次々と起こる。死なない限りは魔法で治癒できるという設定であるとはいえ、些か欠損描写に心血を注ぎすぎているのではなかろうか。

だからこそ、こんな事件が起きてしまった――そうとも言えるかもしれない。

魔法中心の世界とはいえ、ヒロインであるナナオはサムライであり、オリバーは魔法による支援に徹することが多い性質上、剣による迫力重視の戦闘描写が多い。そういったシーンにも注目できる魔法ファンタジー。

皆さんも読んで見ては如何だろうか。

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