工大生のメモ帳

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七つの魔剣が支配するⅡ 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

魔に呑まれる

情報

作者:宇野朴人

イラスト:ミユキルリア

試し読み:七つの魔剣が支配する II

ざっくりあらすじ

ようやくキンバリー魔法学校にも慣れてきたオリバー達だったが、唐突に一年生の最強を決める「一年生最強決定戦」が始まり、学校内でいきなり勝負を持ちかけられるようになってしまった。

感想などなど

魔法を追求した者は、魔に呑まれていく。つまりは死――それを恐れていては、その道の極みには到達できない。まぁ、魔に呑まれたとて神髄を理解できたとは言い難いのが魔法の難しいところである。そんな者の道を進む者は、正しく狂人であろう。

そんな狂人の一人、ミリガン。

トロールの脳を解剖して弄ることで人語を解するにまで知能を向上させ、パレードで暴れさせる原因を作り出した張本人であり、地下にて亜人を殺すゲームをしていた面々を皆殺しにするような凶悪モンスターを放った犯人だ。

彼女は両親にバジリスクの眼を移植されて、生き残ったという希有な人間であり、その経験ゆえに『解剖すること』『改造すること』が、対象に対する愛情表現だと考えているらしかった。だからこそトロールの頭を開けて、脳を弄ることはトロールに対する深い愛情故の行動という訳だ。

彼女のことを狂っていると宣うのは簡単だが、亜人に向けられるまっすぐな愛だけは信じて良いだろう。なにせナナオに腕を切られたとはいえ、彼女はこの第二巻にも登場し、普通にオリバー達に協力してくれる頼りになる先輩になっている。

結果論だが、ミリガンがしたことによる死者はいない(亜人が何人も犠牲になっていると言われるかもしれないが)。そもそも学生同士が喧嘩して大怪我を負った程度では、叱られることもないような学校である。ミリガンが普通に復帰して学校を闊歩していることはおかしいことではないのだろう。

そんなミリガンより、教師を殺したオリバーの方がよっぽど重罪であろう。

 

第一巻の最終章はなかなかに衝撃的であった。

錬金術の教師であるダリウス=グレンヴィルと共に、魔に呑まれたという生徒の研究室の調査に入ったオリバー。どうやら優秀で見込みがあるオリバーに、唾を付けておこうという魂胆があるらしい。

しかし、まさかその生徒に殺されるとは、ダリウスは考えもしなかっただろう。

しかも絶対に防ぐことのできない六つの魔剣の一つで殺された。

……一気に情報が入ってきすぎて困る。オリバーはダリウスを仇敵と呼んだ。

そしてその仇は『驕慢の錬金術師、ダリウス=グレンヴィル』に留まらず、『魔法生態系の君臨者、バネッサ=オールディス』『千年を生きる至高の魔女、フランシス=ギルクリスト』『魔道築学の断りに遊ぶ狂老、エンリコ=フォルギエーリ』『知を越えた無知の哲人、デメトリオ=アリステイディス』『あまねく生命を嗤う呪者、バルディア=ムウェジカミィリ』『全てを見下ろす孤高の峰、エスメラルダ』というキンバリー魔法学校の名だたる教師陣に対する復讐を誓った。

つまりこのシリーズはそういった復讐の話だ。

しかしながら日常パートではそんな復讐に滾る炎を感じさせない、見ていて気味悪いほどに小気味良い好青年なのがオリバーである。地味だが洗練された ”教科書通り” と揶揄される戦闘スタイルに、彼の狂気を感じるのはブログ主だけだろうか。

 

そんなオリバーは一年生最強を決める「一年生最強決定戦」に参加させられる。ルールは簡単、相手との試合をセッティングし勝ったら負けた相手のメダルを奪い、期間内に最も多くのメダルを集めた四人が最終決戦をするという分かりやすいルールだ。

優勝候補の筆頭はナナオ。そらそうだ。六つしかないとされていた魔剣の七つ目を使えるのだから。まぁ、そのことを知っているのはオリバーとミリガンくらいなものだが。剣で魔法を無効化するとか訳分からん芸当もやってのけるし。サムライって凄いんだなぁ……。

第二候補はミシェーラ=マクファーレン。縦巻きドリルがトレードマークのマクファーレン家の長女である。その家の名に恥じぬ才能を持ち合わせ、それでいて努力を怠らないのだから強くなるのは当然の定めなのかもしれない。

オリバーは活躍が地味すぎて目立っていない。真の強者は爪を隠すものということにしておこう。

されそんな彼、彼女らはたくさんの試合を申し込まれることになる訳だが、楽に連勝を積み重ねられる程、実力差はない。皆がそれぞれの個性を発揮して、初見殺しだったり、命を捨てる覚悟であったりと、「あれ? まだ一年だよね?」と疑いたくなるような覚悟の決まり具合である。

キンバリー魔法学校は、実力のある者しか生きては帰れない学校であるということを忘れていたかもしれない。緊張感のある第二巻であった。

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