工大生のメモ帳

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七つの魔剣が支配するⅢ 感想

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻

※ネタバレをしないように書いています。

魔に呑まれる

情報

作者:宇野朴人

イラスト:ミユキルリア

試し読み:七つの魔剣が支配する III

ざっくりあらすじ

ピートが何者かに襲われた。その犯人は魔に呑まれたオフィーリアが生み出した使い魔であった。どうやら実験に必要な男達を攫って集めているのだという。その被害者の多さに、学園は厳戒態勢を敷き、学生統括のゴットフレイをはじめ奪還作戦に動き始めるが――

感想などなど

迷宮の第二層『賑わいの森』にて起きたピートの誘拐。オリバーを捕らえた奇怪な魔物相手に、逃げるという選択をしたオリバー達の選択は正しかったのか? その答えはこの第三巻で嫌でも分かる。

この事件で攫われたのはピートだけではない。かなり多くの学生が攫われ、深層へと連れ去れれたようだ。その犯人は分かっている。第一巻にてオリバー達に絡んできた先輩オフィーリアが魔に呑まれ、自身の目的のために必要な実験材料――作中では薪と呼称される――を求めて、自身が作り出した魔物に男子学生達を攫っては実験に使っているようだ。

この第三巻では攫われたピート救出のために動き出したオリバー達と、魔に呑まれたオフィーリアの過去回想が交互に描かれるという構成になっている。このような学園全体を巻き込む大事件を起こしたオフィーリアの執念、その発端となった因果が、徐々に分かっていくと共に、オリバー達が確実にオフィーリアを追い詰めていく。

つまりは迷宮探索という『冒険パート』と、人が魔に呑まれていく『絶望パート』、二つが楽しめるという訳だ。

 

『冒険パート』ではオリバー、ナナオ、ミシェーラ、ミリガンの四人で迷宮に潜り、ピートを助けるために進んでいく。あまり他作品の名前を出すのは良くないと思うが、ブログ主の脳裏には、「ハリーポッターと秘密の部屋」でハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が部屋のギミックを解いて先に進んでいく話を思い出していた。

迷宮には数多くのギミックがある。

たとえば。

二層最後の関門『冥府の合戦場』。骨の使い魔から構成される二つの軍勢が配備されたフィールドで、先に進みたい学生は片方の兵士として戦い、自軍を勝利へと導くというもの。軍師として軍勢を指揮するならばまだしも、あくまで兵士として参加して勝利するというのがポイントだ。

ここではオリバーの知識が生き、ナナオの並外れた戦闘力が鍵となった。ミシェーラもナナオやオリバーの無茶を止めるストッパーとしての役割があったのではと、結果論だがそう感じる。

それ以外にもオリバー、ナナオ、ミシェーラ、ミリガン(すっかり仲間になってる……)の四人の誰か一人が欠けていては進むことのできなかった迷宮のギミックの数々。ナナオの力押しも時には役に立ち、オリバーの機転の良さが生きたこともある。ミシェーラの知識が生かされる場面もあった。

ミリガンは先輩として指導役に徹しつつ、オリバー達の成長や長所を見定めつつ、ルートや作戦を考えてくれたりしていたようだ。亜人絡みでなければ、普通に滅茶苦茶いい先輩なのではないだろうか。普通に美人だし。

 

ここでオフィーリアについても語りたい。彼女について説明する=ネタバレに直結するというのが実情だが。この第三巻の魅力は、彼女に関する回想にもあると言わざるを得ない。

結論から言うと、オフィーリアはサキュバスの末裔である。サキュバスという種族は、人とかモンスターのオスを見境なく誘惑し、子供を産むことで繁栄を遂げ、同時にその性質が原因で滅びていくという悲しき存在だ。

見境なく誘惑する……どうやら彼女達の身体からはオスを興奮させるような匂いが発せられ、理性を壊し、自身を襲わせるという効果があるようだ。それによりオフィーリアが妊娠した数は、かなりの数に上る。

そんな襲われることが当たり前で、種族も関係なしに性行為をして子供を産むことが当たり前の彼女が、このキンバリー魔法学校で初めて恋をした。その恋の行方が、魔に呑まれるというこの第三巻の結末にまで至る過程が、読者の心を抉ってくる。

このような結末は、このような物語はキンバリーにおいて珍しくはないのかもしれない。第一巻から亜人の人権問題、第二巻では貴族の本家と分家の問題、第三巻では遺伝子に刻まれたサキュバスの運命というように重い問題が続いていく。これからのオリバー達の活躍によって、これ以上悲しみの連鎖が続かないことを祈るばかりである。

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