工大生のメモ帳

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僕らのセカイはフィクションで 感想

【前:な し】【第一巻】【次:第二巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

セカイは終わる

情報

作者:夏海公司

イラスト:Enji

試し読み:僕らのセカイはフィクションで

ざっくりあらすじ

笹貫文士は、学園事件解決人として学園内で起きた数々の事件を解決しながら、その事件をネタにしつつネット小説『アポカリプス・メイデン』を連載していた。アクセス数の伸びもかなり良く、人気イラストレーサーに挿絵を描いて貰ったりしていたが、次の展開に詰まり投稿が止まっていた。そんな中、街で『アポカリプス・メイデン』のヒロイン・いろはを見かけて――。

感想などなど

ネット小説は、この世に五万と転がっていて、そのほとんどが大したアクセス数も集められず消えていく。このブログの記事数は、現在1000を超えているが、その中でもアクセスを稼いでくれているのはそれほど多くない。

ブログですらそうなのだから、小説の世界はもっと厳しい。

本作の主人公・笹貫文士は、ネットで『アポカリプス・メイデン』という現代を舞台とした異能バトル作品を連載していた。設定としては下記の通り。

〈秘蹟(サクラメント)〉という異能力を操るアークの民と呼ばれる古代種族が、世界の覇権を握るために行動を開始。彼らの最終目的である〈トランペッツ〉と呼ばれるDNDを持つ少女を巡って、人類との苛烈な戦いが始まった!

本作の特徴は、異能と使ってくるアークの民に対抗する主人公が、一切の異能力を持っていないというところだ(能力無効化とか、兵器を自在に使えるとか、身体能力がバカ高いとか……そういうのも一切ない)。知恵と工夫、等身大の十代の学生が使える策のみを使って戦う。

そのコンセプト自体はどこでもありそうだが、立ち塞がる障害の大きさと、それを打ち破るカタルシスが受け、『アマチュアらしからぬ』と大絶賛。

これまで「ここからどう打開するんだ!」という期待値を、悠々超えてきた……のだが、ここで一つの壁にぶち当たった。どう足掻いても勝てない状況に、作者自ら追い込んでしまったのだ。

収拾の付かないストーリー、読者の期待というプレッシャー。やっぱり小説を書くって難しいんですねぇ……と適当なことを思う。そんな悩みを抱えている中、笹貫文士は街中で『アポカリプス・メイデン』のヒロイン・いろはを見かける。

 

小説の中にいるそっくりさん……だったら良かったのだが。作中の人物と同姓同名、異能力者に追われていたとなれば確定。彼女は『アポカリプス・メイデン』のヒロイン・いろはだった。

作中では、古代種族アークの民が、世界の覇権を握るために必要な〈トランペッツ〉の役割を担う者のDNAを、ヒロイン・いろはが持っているという設定だ。そのため是が非でも彼女を連れ去って自分のモノにしようと異能力者を差し向けてくる。

これはあくまで作品の中の設定、しかしそれが表舞台に出てきた。

そうなると当然、作中の敵・八つ星も現れる。

第一星〈探偵〉……おそらく作中最強。〈トランペッツ〉がいないと覚醒できないため不在。設定も決まっていない。

第二星〈詩人〉……不明。作中で説明されていないので二巻以降で出てくるかも。

第三星〈登山家〉……視点を山登りのごとく上昇させることができる探索系。

第四星〈映写技師〉……映像フィルムを編集するように過去を編集、なにもなかったことにできる。

第五星〈墓掘人夫〉……ストレスを物理的な衝撃に変える能力。

第六星〈奇術師〉……物から物への次元移動を行える能力。

第七星〈剪定人〉……人が人を認識することを阻害する能力。

第八星〈仕立屋〉……詩人と同様に能力の説明なし。作中で説明されていないので二巻以降で出てくるかも。

それら個性豊かな第八星のトップに立つリーダーは〈北極星〉……塩を操り、兵隊を組織して使役することができる能力。めちゃ強。

彼らからの襲撃から身を守りつつ、作品のヒロイン・いろはを守りながら作者が戦っていく。脅威の身体能力とか特殊能力がなくとも戦える設定にしていて良かったと言っておこう。

なにせ作者であるのだから、彼らの弱点などは熟知している。負ける戦ではない……といいたいところではあるが、大きな問題が二つほど浮上した。

まず一つ。『〈映写技師〉を倒す手段が思いつかなくて連載が滞っていること』

〈映写技師〉の能力は過去を編集してなかったことにするというものであるが、こいつを倒す手段が思いついていない。一応、能力を使うにしても色々と制限があるのだが、それにしたって強すぎる。

次に二つ目。『敵である異能力者達が世界が変わったことに気付き始めたこと』

世界が切り替わったことに違和感を覚え、色々と調べた結果、別の世界に来てしまったことに気付いたらしい。その上で彼らがどのような行動を取るのかは作品を読んで確認して欲しい。

ただ忘れてはいけないのは、彼らの最終目的は世界の覇権である。

 

この作品のジャンルは何かと聞かれれば、間違いなくSFと答える。

自分が生きている現実が、誰かが見ている夢という可能性を否定できないように、自分がいまいる環境が誰かの書いた小説という可能性も否定できない。『アポカリプス・メイデン』のヒロイン・いろはは、突然「あなたは小説の中の主人公だ」と言われ、意味の分からない能力者に追い詰められていく。

最初はそんなことを信じられなかった。しかし、調べていくにつれ、自分の曖昧すぎる過去や記憶と向き合う必要が出てきた。それでも生きていかなければならないという恐怖を、ブログ主は想像できない。

彼・彼女達は生きていくために自分の存在と向き合う。これはそういう物語だ。

二巻以降が出てきそうな感じもあるが、この一巻でも十分に綺麗な結末を見せてくれた。満足度の高い一冊だった。

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