工大生のメモ帳

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処刑少女の生きる道2 ―ホワイト・アウト― 感想

【前:第一巻】【第一巻】【次:第三巻

※ネタバレをしないように書いています。

強い悪い人でありたい

情報

作者:佐藤真登

イラスト:ニリツ

試し読み:処刑少女の生きる道2 ―ホワイト・アウト―

ざっくりあらすじ

入って戻って来た者はいないとされるリーベルの霧。そんな霧が近くにある港町リベールに辿り付いたメノウとアカリ(とモモ)。【時】の純粋概念をその身に宿すアカリを殺すため、その霧を利用することを思いついたメノウは、早速それを試すが――。

感想などなど

第一巻の感想を読み返すと、些か説明を簡略化し過ぎていることが目に付いた。決して嘘を書いているという自覚はないのだが、そもそもこの世界における我々が想像する魔法は、魔導という名称で呼ばれている。ちなみに、魔法を使うために消費される魔力に当たる言葉は、導力というようになっている。

その魔導を行使するためには、発動に必要な紋章などが織り込まれた特殊な媒体が必要であり、それを編み込んだ服があったりと、その形は一つに留まらない。おそらくあの世直し姫が使っている剣も、その類いなのではないだろうか。

そんな導力とは一線を画す特殊な力が、アカリを始めとする異世界人がやって来る際にその身に宿す純粋概念だ。メノウやモモが魔導を発動させる前には、「導力:接続――神官服・紋章――発動【障壁】」というような描写が入る。

「導力:接続」は魔導発動の枕詞のようなもので、先頭に必ず書かれている。その次の「神官服・紋章」は、導力が流し込まれて魔導が発動する媒体であり、この例の場合は神官服の紋章の力を使うということを意味している。そして最後「発動【障壁】」は紋章の効果で発動した魔導である。

アカリの純粋概念【時】が発動時、例でいうところの「紋章」が「純粋概念【時】」となっている。また、アカリが死んだことによる【回帰】が発動した場合には、先頭の「導力:接続」が「導力:自動接続」となっていたりと、細かな点まで作り込まれていることが見て取れる。

第二巻ではそんな純粋概念に関して、踏み込んだ内容が語られていく。異世界からやって来る過程で与えられる純粋概念という強力な力。それはかつて、四大人災『塩の剣』『星骸』『霧魔殿』『絡繰り世』という災いを引き起こした。

あらゆる物体を塩に変えてしまった『塩の剣』については、第一巻で少し言及されている。今回は中に入ってしまえば二度と戻ってくることはできない西南諸島連合の全域を覆い尽くす『霧魔殿』に、アカリを入れて殺してしまおう計画を試して見ることから物語は始まっていく。

まぁ、殺せなかったのだが。

 

純粋概念【時】が自動発動し、【回帰】によって復活したアカリ。四大人災『霧魔殿』でも殺せなかったが、それはメノウも想定の範囲であり、むしろ「やっぱりな」という確信の方が強かった。

やはり別の方法を考えないといけないな、という時に舞い込んでくるは別の仕事だ。メノウは処刑人としての顔以前に、選ばれし『第一身分(ファースト)』と呼ばれる身分であり、魔導を駆使して市民を守る仕事が表向きなのだ。

ちなみにこの世界は、『第一身分』、『第二身分(ノブレス)』、『第三身分(コモンズ)』の三つに区分されている。第一が一番上で、第二、第三というように続いていく。

メノウが頼まれた仕事は、いまいる港町リベールに『第四(フォース)』と呼ばれる市民団体が巣くっているというらしく、その調査を依頼された。市民団体というように言われてはいるが、その実態は準テロリストであり、この港町では危険な薬を配っているようだ。

その薬は日本で言うところの薬物とは、効能は似ているが、その作り方が大きく異なる。なんと人間の肉体や精神といった生贄を捧げることで生成する薬だったのだ。そのおぞましさは、一介の市民団体が作り出せるような代物ではない。技術的にも、生贄を用意する手間を取ってしても、そのバックには何か大きな影を感じざるを得ない。

その大きな影の大きさに、読者は驚かされることになる。

 

第一巻ではあまり気にしていなかったのだが、第二巻からは戦闘シーンに力が入っているように感じた。メノウが陽炎から受け継いだ技術の高さと、それを生かした器用な戦い方が、この第二巻ではしっかりと描かれていく。

またチート過ぎて殺せない女子高生アカリも、ただのチートではなく、大きな弱点を抱えているということが判明する。ネタバレは避けるが、これまで通り【回帰】を繰り返していては、アカリの目的は達成されないということが突きつけられたのだ。

強い力があることと、目的の達成はイコールではない。目的を達成するために、その強い力が邪魔になることだってある。だからといって、その力を捨てることはできないという板挟みで、アカリは何を思うのか。

次巻以降の展開が気になるところである。

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