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処刑少女の生きる道3 ―鉄砂の檻― 感想

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻

※ネタバレをしないように書いています。

強い悪い人でありたい

情報

作者:佐藤真登

イラスト:ニリツ

試し読み:処刑少女の生きる道 3 ―鉄砂の檻―

ざっくりあらすじ

メノウとアカリが砂漠を進んでいると、いきなり武装集団に襲われ、アカリを攫われてしまう。そのまま彼らを尾行し、本拠地を特定。アカリ奪還のため単身乗り込んだ。その際、アカリと同じように閉じ込められていた知り合いの神官・サハラと出会い、ついでに救出する。

感想などなど

今作における魔導の設定というのは、どうにも言葉を丁寧に選ばないと誤解を招きそうだ……と二巻の感想を読み返して思う。

この作品は、「生命の考え方」「倫理観」「身分制度」「魔導」などなど、物語を理解する上で知っておくべき情報が多い。ブログ主はブギーポップや魔法科高校といった作り込み世界観作品が大好き人間なので、特に苦でもないのだが、その世界独自の設定と単語が出てくる作品が苦しい人には、この作品は読みにくいかもしれない。

第二巻の感想では「魔導」に関して、それなりに詳しく書いたつもりだ。本当は四大人災について半分くらい使うつもりだったのだが(純粋概念【魔】の「万魔殿」との戦いが最後の展開だったため)、この第三巻では純粋概念【器】の「絡繰り世」との戦いということになるため、第三巻でまとめて説明した方がいいかもしれないと考えた。

……という説明で『純粋概念』やら『【魔】』やら『【器】』といったワードが飛び出している。この第三巻の記事から見た人は頭を抱えていることだろう。全く持って意味が分からない、と。

とりあえず『純粋概念』というのは、日本人がこの世界にやって来る過程で獲得した力のことだ。この世界の住民が魔導を行使する際、紋章を付与した服や短剣を使う。しかし異世界人は、そういった紋章がなくとも魔導を使うことができ、しかも固有かつ強力だ。

その純粋概念は【魔】や【器】というように、それぞれ区分けすることができ、強さにも個人差がある。四大人災を起こした純粋概念は、【魔】【器】【星】【龍】【白】の五つ(「一つ多いじゃねぇか!」という方もいるだろうが、それ以上はネタバレなので自重しよう)。

第三巻では【魔】の純粋概念と戦った。その強さは読んだ方ならば分かっていただけるだろう。生贄によって強化されているのだろうが、それでも「万魔殿」の小指だけでメノウとアーシュナを圧倒したのだから、もしも全身だったらと考えるとゾッとする。

しかし、そんな純粋概念にも弱点がある。それは使えば使うほど記憶が失われていくというものだ。メノウが殺したくても殺せないアカリは、純粋概念【時】をその身に宿している。メノウが死ぬたびに、召喚される時からやり直している彼女は、現世での記憶をかなり失いつつあることからも実証されている。

ただまぁ、記憶を失うことを弱点と思わない人もいるだろう。しかし四大人災を見て欲しい。彼・彼女らは元からこんな感じだったのだろうか。「万魔殿」は映画好きのようだ。映画の世界を再現するという戯言を宣いながら、街を破壊しようとする子供だったのだろうか。

記憶の消失と理性の崩壊は同一視できるのかもしれない。

 

そんな純粋概念であるが、【時】にはもっと重大な問題がある。アカリは何度も時を巻き戻し、メノウを助けるために奮闘している。しかしループの度に世界は少しずつ変化しているのだという。

そもそもこれまでのループで、「万魔殿」との遭遇はなかった。それが今回になって現れた理由を、わざわざ「万魔殿」が教えてくれた。ループを繰り返すことで、この世界に綻びができつつあり、それを破って表に出てきたのだ。

つまりループをまたしたとすれば、小指だけだった「万魔殿」がもっと勢力を増す可能性があるということ。幸いまだ表に出てきていない他の人災も、大人しくしているとは限らないということ。

これはメノウを助けたいアカリにとっては絶望であった。どこかループを繰り返せばいつかは、という願望があったのかもしれない。しかし実態は、ループを繰り返すほどにハードモードになっていくのだ。

それでもきっと、彼女はループを繰り返すのだろう。その覚悟がこの第三巻では痛い程に伝わってくる。

 

この第三巻では人身売買をしている一大犯罪組織・鉄鎖を潰す話だ。といっても、アカリが誘拐されそうになった事件と、その裏で蠢く影や協力者の存在が、状況をややこしくしている。

鉄鎖が過酷な環境である砂漠に拠点を構えていたのはなぜか?

メノウを敵に回してでもアカリを攫い、メノウを倒そうと躍起になったのはなぜか?

ゲームでしか聞かないようなレベルアップという言葉を口にする鉄鎖の者達、その意味とはなにか?

様々な情報が繋がっていく流れは面白い。また魔導のアクションも、たくさんの兵器の登場でこれまでとは違った毛色となっている。読み応えのある第三巻であった。

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