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天才王子の赤字国家再生術 〜そうだ、売国しよう〜 (1) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

隠居したい

情報

作者:鳥羽徹

イラスト:ファルまろ

試し読み:天才王子の赤字国家再生術 〜そうだ、売国しよう〜

ざっくりあらすじ

資源も人材も兵士も何もない弱小国家ナトラの政治を任されることになった王子ウェイン。家臣からの信頼も厚く、今後の政治を期待されている彼だったが、裏では売国して隠居したいと言っているような男であった。何とかして売国できるレベルにまで国力を増強させ、そこそこのところで逃げだそうとするが――。

感想などなど

歴史を見ていると、長期的に続いた王権政治もいずれは潰れる。権力は人を狂わせるとでもいうのか、国民のご機嫌取りに失敗した王は失脚させられる。圧政に次ぐ圧政はクーデターを招き、国内で血が流れる。豊かになり過ぎて目立った国は他国から狙われる。

国内外でのガス抜き、相対的なバランス感覚が、国を長く存続させる秘訣なのではないだろうか。と、簡単に言ってできるのであれば民主主義は台頭しない。そもそも国王はその責任と対価が釣り合っているのだろうか……と本作におけるウェイン王子を見て、少しばかりの同情の念を抱いてしまう。

なにせ王子といえど、ウェインが統治(正確には身体を壊した国王に代わって政治を取り仕切っている)している国はあらゆる意味で弱小であった。

まず立地が悪い。

ナトラ国があるヴーノ大陸は東西に長い楕円形をしている。その中央には、南北に長い山脈が走っており、大きく東西に分断され、それぞれ東と西で人種や思想、文化が大きく異なっている。山脈によって隔てられているということもあり、東西を繋げる大きく舗装された道は、重要なパイプであり、国としては是非とも押さえておきたい場所となっている。

そんなパイプの内の一つ、最北の道の上で栄えた国がナトラ国であった。 ”栄えた” とは言っても、大した資源はない。優秀な人材はナトラ国を飛び出してしまう。兵力はまともな戦争をしたことがないために、弱小のそしりを受ける。

つまりは未来は真っ暗であり、売国して逃げ出したいというウェインの気持ちは分からんでもない。しかし、そもそもそんな弱小国家では買ってくれる国もいないという悲しみ。

何とかして最低限、売れる程度には国を増強しない限り、売国奴としての道はない。

そこで天才王子による赤字国家再生術が始まる訳だ。

 

ウェインは天才と呼ばれている。それは事実であろう。そしてそんな彼の周囲や見方陣営は「彼の想像よりも無能だ」。ただ無能というのではない、彼の想像よりも無能だと言いたい。

例えば。

隣にあるマーデン王国がナトラに攻め入ろうとしてきた。ナトラは当然ながら軍を出し応戦する。ウェインとしてはそこそこの勝ちを治めることで和平を結ぶなりすることで、軍としての出費その他を押さえようとする。

そのような考えをマーデン軍を率いていた将軍・ウルギオが知るはずもない。戦争に慣れている彼の軍隊は、帝国とゴニョゴニョして武器と戦略を叩き込まれて超強化されているナトラ軍に最初は押されるも、時間経過と共に戦場での経験が長いマーデン軍が徐々に圧倒していく。

そんな契機を見計らい、一気加勢で戦場を有利に進めようとするウルギオ。その選択はおそらく最善であろう。しかしそのまま押して潰すではなく短期決戦を望んだウルギオは、総大将であるウェインのいる場所まで、自ら少数の兵を率いて突っ込んでいった。

それを迎え撃つはバレないように何ヶ月も前から準備させていた伏兵による待ち伏せ戦法。それにまんまと嵌まったウルギオはあっさりと首を討たれた。つまりはナトラ軍が完勝してしまったという訳だ。

こうして事実だけを淡々と書いてみると良い勝負をしているように感じるが、ウルギオはナトラ国の軍を舐め腐っていた。ナトラの軍は帝国との交渉で武器や帝国の訓練を受けていたにも関わらず、だ。何とかして完勝ではなく、そこそこの勝ちで留めたかったウェインの想像通りにはいかない。

その後、軍としては進撃するか撤退するかの二択に迫られる。家臣達はこのまま勢いに乗って侵略したいとしているが、ウェインとしては金もかかるしやりたくない。そこで「それは無理だろう」という案を出し、家臣達に侵略は無理だという発言を引き出させようとする。

しかし家臣達はその無理を快く受け入れた。その無理筋の案がどうして無理なのか分からなかったのだ。

このようにウェインにとって、「〇〇というデメリットが大きいから無理だな」と感じた案を、敵も味方もデメリットを無視して(もしくは気付かず)遂行しようとし、その中でも最悪の事態を引き起こしていく。

何だろう、段々と可哀想になってくる。

このまま赤字国家は再建できるのか。見物である。

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