工大生のメモ帳

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悪役令嬢の役割は終えました 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

悪役令嬢のその後……

情報

作者:月椿

イラスト:煮たか

試し読み:悪役令嬢の役割は終えました

ざっくりあらすじ

神様と契約し、妹を助けて貰う代わりに悪役令嬢レフィーナとして転生した雪乃。その役目をしっかりと果たし、婚約破棄されて王城で次女として働くことになったが――。

感想などなど

公爵家の娘・レフィーナは悪役令嬢である。

そんなことは誰が決めたのか。そもそも悪役令嬢には自分が悪役という自覚がないから悪役なのだろうという疑問を呈したい気持ちは分かる。しかしながらレフィーナは生まれ持っての悪役であり、その役割を全うすることが使命なのであった。

なんと悪役令嬢レフィーナは、悪役として生きていく代わりに、不治の病に冒された妹を助けることを契約させられた天石雪乃という少女だったのだ。そのためにドロシー嬢に暴言を吐いて虐め、王太子レオンに救わせることで婚約を結ばせるというストーリーの立役者として孤軍奮闘した。

その役割を終え、つまりはドロシーとレオンの婚約が成立。レオンと婚約していたはずのレフィーナは、虐めた責任を取る形で王城の侍女へと落ちた。そんなところから物語は始まっていく。

その時の解放されたと言わんばかりのレフィーナの喜びようよ。

そもそも雪乃にとって、ドロシーに暴言を吐くということは苦痛に他ならなかった。我々が想像する悪役令嬢像に習うならば、命を脅かすレベルの悪逆非道の限りを尽くすべきなのかもしれない。

しかし彼女はそこまではできなかった。

「神に愛されているだけあって可愛いんだもの! あんな子に手を上げるなんて、できないわよ!」と罵るに止まった理由を説明している。なんだかんだで良い子なのだ。そんな裏の顔を隠し続け、役役令嬢としての名ばかりが世間に知れ渡った彼女が、侍女として生きていく。

それが本作のストーリーとなっている。

 

悪役令嬢の行く末は、死と相場が決まっている。

ただそれは、そこに至るまでの行動の劣悪さ故である。レフィーナの場合、「虐めてはいたけど手は出してないからなぁ」と王族からの罰則は甘々であった。彼女は王城の侍女として、今日の飯や宿には困らない生活を手に入れた。

しかもこの飯が美味い。王族の人間としては物足りないかもしれないが、彼女の本来の姿は庶民の暮らしに恋い焦がれる、米を愛する日本人である。仕事をした後の白米は美味かろう。

どうやら王族は白米といった和食のような食事はできなかったらしい。味噌汁=庶民の飯という数式が成立する文化なのかもしれない。とにかくそれがメフィーナにとってはありがたかった。

ただそんないいことばかりある生活という訳にはいかない。

まず侍女達の間でも、メフィーナの悪役令嬢としての噂は広がっている。その態度は尊大で、口が悪く、相手を見下す言動を絶やさない悪役令嬢の鏡のような姿を想像したのだろう。彼女に対する当たりは強い。

元公爵令嬢から侍女に落ちたという彼女を、虐めてもお咎めはないだろうと酷い扱いをする者も出てくる。ちょっとしたほころびを見つけては小言を言う……それだけならば大したことはない。厄介なのは鞭打ちといった体罰までもが行使されるという事態の発生であった。

それもこれも悪役令嬢としてやって来たことへの罰……そう割り切るメフィーナ。読者としては、神との契約により悪役令嬢を演じざるを得なかった彼女への同情が沸いてくる。

どうか彼女を救ってあげて欲しい……そんな願望を叶えるように物語は展開されていく。

 

ご都合主義と言ってしまえばそれまでだが、悪役令嬢として侍女に身をやつしたレフィーナが、あれよあれよという間に幸せな生活を掴んでいく話となっている。彼女のことを理解してくれる格好いい騎士の彼氏も出来て、虐めていたドロシー嬢とも早急に仲直りし、公爵令嬢として復帰……は無理でも侍女として幸せになっていく。

手始めにレフィーナに鞭打ちをした侍女長が解雇される。レフィーナを嫌っていたはずの人達が、侍女としてのレフィーナと接している内に彼女を助けようと動き出すまでの流れは王道で良き。

侍女長解雇に動いた一人である騎士ヴォルフ・ホードンは、ドロシー嬢を虐めていたレフィーナをかなり嫌っていた。しかしレフィーナと接していく内に考えを改めていく。そして徐々に恋に落ちる。

ドロシー嬢は、むしろレフィーナに感謝を述べた。自分に対して暴言を吐く度に悲しい顔をするレフィーナを不思議に思っていた彼女にとって、レフィーナは悪役令嬢ではなく、恋のキューピッドという方が近しい。

これも神の望んだシナリオなのだろうか。レフィーナが幸せになっていく過程を眺める作品であった。

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