※ネタバレをしないように書いています。
今日に満足できるまで夜ふかししてみろよ
情報
作者:コトヤマ
試し読み:よふかしのうた (8)
ざっくりあらすじ
平田ニコが講師を務めている定時制の夜間学校に体験入学することなったコウとナズナ。そこで明かされるのは、ナズナの初めての友達の記憶――。
感想などなど
ナズナの持っていた検診表からカブラが務めている病院に辿り着き、そこでナズナの衝撃的な過去が判明した第七巻。
彼女が人間だった頃の記憶が全くないのは、そもそも彼女は吸血鬼と人間の間で生まれた子であるから。そんな生まれて間もないナズナを育てたのは、ナズナの母親・ハルに恋して吸血鬼になった少女・カブラだった。
この一連のストーリーが、個人的には好きである。
病院の屋上にて、嫌いを語って好きを伝えるシーンが好きだ。吸血鬼になって幸せそうに笑うカブラが好きだ。そんな彼女の淡い恋がどうしようもなく終わって、残されたナズナを育てたカブラが好きだ。
そんな淡い想い出を捨て去って、探偵に殺される弱点を与えないように対策を打ったカブラ。もう少し対策が遅ければ、おそらくカブラは探偵に殺されていたのだろうことが、第七巻の展開から分かる。第七巻の展開といえば、小繁縷ミドリの同人誌は楽しみにしておきますね。
さて、とりあえず自分のルーツを理解したナズナは、自分探しの旅にでかけることにする。自分探しの本場は北海道かインドと相場が決まっているが、ナズナとコウの二人が向かったのは夜間学校である。
どうやら十年前にナズナが通っていたらしい。らしい、というのはナズナ本人の記憶が曖昧であるということ、そしてあまり思い出したくない苦々しい経験をした場所だから多くを語りたがらなかった。
この夜間学校に通うことにしたコウとナズナ、二人の夜の学校生活が始まる。
この第八巻にて、コウに初彼女ができる。
普通に学校に通っていた頃、告白されて「恋が分からない」と言って振った彼に恋人ができるとは。天変地異の前触れかと思いきや、そういう甘々な話ではない。
表面上の対人スキルはカンストしているコウは、ひとたびクラスの人気者となった。頭も悪くないため、しばらく学校に行っていないにも関わらず、しかも中学生でありながら高校の内容を理解した。「勉強は嫌いじゃない」という彼の発言は嘘ではないのだろう。
そんな彼に詰め寄ってくる女子がいた。彼女の名前はリラ。
一目見てピンと来た、とコウを追い詰める彼女に言葉は通じない。好きになってしまったから仕方がないという独自の理論に則り、この出会いは運命だと根拠のない確信を語り、コウを王子様と定義付け、コウを言いくるめて恋人関係になった。
コウ自身が納得したかはさておいて、とにかく二人は付き合った。
ただしこれは都合が良い。
どうやらこのリラという女の子は、出会った男子の全員にそういうことをしているらしい。クラスメイトの全員が彼女と付き合ったことがあるというのだから、彼女の熱しやすさと冷めやすさが分かるであろう。
おそらく今回も飽きて捨てられる。その短い期間だけでも付き合っているということにして、ナズナがこの学校にいた間に起きたことを調べることに。リラという女の子は変わっているが、なんだかんだで良い子で、色々と協力してくれる。
そこで判明するのが、かつてこの学校にはナズナが初めてできた友達がいたということ。その友達は失踪しているそうな……一体、本当に何があったのか?
過去の回想で語られるのは、ナズナという生まれたての吸血鬼が、少しずつ人間に近づいていく過程だと思う。初めてできた友達・目白はいつも文芸部室にいて、そこにナズナは入り浸った。
推理小説を人が死ぬ小説ではなく、探偵が頑張る話と説明する目白の感性が、個人的に好きだったりする。好きとは、愛とは、探偵とはを律儀に語って聞かせる彼女の存在が、ナズナの人格形成に大きく関わったのではと思う。
そんな目白が抱える闇は、父親が浮気をしているかもしれない(おそらくしているだろう)、その浮気を疑った母親と父親が常に喧嘩している……という決して明るくは語れない闇だけれど、それらを解決しようと動く二人の日常は明るく華やかに思えた。
それらをぶっ壊す吸血鬼、闇が濃くなっていく展開が続く。読み応えのある第八巻であった。