※ネタバレをしないように書いています。
裏側にようこそ
情報
作者:宮澤伊織
イラスト:shirakaba
ざっくりあらすじ
ネット上で怪異として語られるような存在が出現する裏世界。そこに入って探検する仁科鳥子と紙越空魚、二人の物語。
「くねくねハンティング」「八尺様サバイバル」「ステーション・フェブラリー」「時間、空間、おっさん」
感想などなど
家庭教師をしてくれた数少ない友人・沙月を探すために、裏世界を探検しつつ、金になる物を集めている仁科鳥子と、大学で専攻している文化人類の研究テーマとして現代の実話怪談に興味を持っていた紙越空魚の二人が出会い、裏世界を探検しつつサバイバルしていく物語となっている。
ネットにどっぷり浸かっている者ならば、知っているような怪異の数々と、命からがら逃げ延びつつ生き残っていくサバイバル物となっている。不気味な世界観や怪異の数々は、女神転生や流行神っぽいなとブログ主的には感じている。
「くねくねハンティング」
くねくね、とは『田や川向こうなどに見える白または黒のくねくね動く存在であり、その正体を知ると精神に異常をきたす(ソース:くねくね - Wikipedia)』というネット起源の怪異である。
神格化された蛇だとか、熱中症が見せる幻覚だとか色々言われている。本作で描かれる裏世界には、ネットで描かれるくねくねのような白いくねくねと動く存在がおり、それと遭遇してしまった空魚が意識を失って湿原でぶっ倒れているシーンから始まっていく。
くねくねを見てしまったことで脳内を駆け巡る思考と、くねくねの正体を理解してしまうことに対する恐怖が、文章により巧みに表現されている。ネットで語られるような、くねくねを見てしまった者がする奇妙な発言の数々に、説得力が産まれるような展開は、元ネタを知っていればより楽しめるような作りとなっている。
見所はそれだけでなく、死体が転がっているような危険な世界へと、懲りることなく脚を運ぶどこか狂っている鳥子と空魚の関係と掛け合いも魅力だ。
「八尺様サバイバル」
八尺様とは八尺(約二メートル四十センチ)ほどある女性で、彼女に魅入られた者は数日中に殺されてしまうのだという。こちらもまたネット起源の怪異であり、ブログ主的には一番好きな話だったりする。見たことないという人は、検索すればいくらでも出てくるので見てみて欲しい。
くねくね討伐を終えたかと思えば、すぐーに裏世界に潜っていく二人の前に現れたのは八尺様……ではなく、失踪した妻を探しているのだという男。二人と会った時点では三十八日ほど潜っているのだと語り、かなり裏世界にも詳しいようだ。
そして三人で裏世界の探索を続けることになった矢先に現れる八尺様。幻覚のようなもので惑わされ、八尺様を妻だと言い張って駆け寄ろうとする男と、八尺様を失踪してしまった親友・沙月だと言い張りつつ駆け寄ろうとする鳥子。そんな二人に挟まれて、特に大切な人がいないと語る空魚。
駆け寄っていった男はあっさりと死んでいく。改めて裏世界の危険性を認識しつつ、八尺様からどうにか逃れようと、策を巡らす。
彼女達二人でなければ、生き残ることができないような危険なサバイバルであった。
「ステーション・フェブラリー」
きさらぎ駅とは、突如として現れる無人駅であり、駅の外には日本語とは思えないような奇妙な言語を操る奇怪な人型が歩き回っており、ネットや電話は繋がるらしく、ネット上ではきさらぎ駅にやって来てしまった人の書き込みが残っている。
八尺様から何とか逃げ延びた二人は、当分の間は裏世界に行くつもりはなかったのだが、普通に居酒屋で食事をしていたら、いつの間にかきさらぎ駅の空間に来てしまっていた。
そこには語られるように日本語ではない奇怪な言葉を話す首から上がない人が暮らしており、同じく首なしの犬などが襲ってくる上、そこら中にトラップが仕掛けられた危険地帯であった。
そんな世界を逃げ回っていると、同じく巻き込まれた沖縄で訓練中だった米軍がおり、銃火器で奇妙な敵達と戦いつつ、外に出るための手段を探しているらしかった。二人が来る随分前から、この世界に囚われており、すでに多くの仲間達が犠牲になっているようだ。その死に方というのが、どれもエグい。こんな世界なのだから、まともな死に方というものを期待するのは間違っているのかもしれない。
二人は死なずに外に出ることができるのだろうか。最後の最後まで気を抜くことの出来ないサバイバルの幕開けである。
「時間、空間、おっさん」
時空のおっさんとは、裏世界のような不思議空間にやって来てしまった者の前に現れ、「おい、お前なんでここにいるんだ!」と言って元の世界に戻してくれる(?)というネット発の怪異である。
これまでくねくねとか八尺様とかきさらぎ駅とか、裏世界で死線をくぐってきた二人。今度こそはしばらく休みたい訳だが、鳥子としてはまだ親友の沙月が見つかっていないために、休まずに裏世界に潜りたい。そもそも空魚としては、会ったこともない沙月のために、命を賭ける意味などないのだが。
そんな空魚を置いて、喧嘩別れするような形で、ただ一人裏世界へと潜っていく鳥子。
しかし、鳥子が戻ってくることはなかった……これまで二人でなければ生き残ることのできない場面など、いくらでもあった。つまり鳥子は死んでしまったのでは? という嫌な想像が脳裏をよぎる。
とりあえず、鳥子の家へと向かってみる空魚。そこにいたのは鳥子ではなく、時空のおっさんだったから驚きである。裏世界の謎に迫るような哲学的な話や、銃を扱えるような鳥子の過去や、どこか狂気とサイコパスを感じる空魚の過去など、興味深いエピソード目白押しの内容となっている。