工大生のメモ帳

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錆喰いビスコ5 大海獣北海道、食陸す 感想

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

喰われる大地。喰う大地。

情報

作者:瘤久保慎司

イラスト:赤岸K

世界観イラスト:mocha

試し読み:錆喰いビスコ 5 大海獣北海道、食陸す

ざっくりあらすじ

大地を呑み込む生物兵器・北海道が侵攻を開始し、九州を喰らい始めた。それを止めるため、子供姿のビスコは、ミロと一緒に北海道の体内へと飛び込んでいく。

感想などなど

第四巻のラストは、ビスコを兄上と慕うシシが、気高く美しく成長し、最後には王であるホウセンの首を斬り落とすという衝撃の展開で幕を閉じた。紅菱による花の咲き誇る技の数々に見惚れている暇はないくらい、超加速度的に進んでいく物語と展開に、おいていかれないようにするのがやっと紅菱との物語は、第五巻まで続いていく。

とりあえず現状を簡単に説明すると、シシが王となり、冒頭からいきなりビスコが子供にさせられ、北海道が九州を喰らい始めたといったところだ。北海道は大陸ではなく、生物であったという突っ込みポイントはビスコ達も作中でしてくれているので安心して欲しい。

その北海道を指揮しているのが、ビスコを子供の姿に変えた犯人にして、紅菱の王・シシである。どうやら花で北海道の脳を冒すことで、そんな荒唐無稽なことを実行に移しているようだ。花の力は偉大である。

しかし、キノコも負けてはいない。ボグンッ、ボグンッという独特な擬音で生えるキノコを駆使して、大陸を喰らうほど巨大な北海道の体内へと入っていき、そこ(北海道の膵臓)で暮らしていた民族の子供・チャイカから、『霊雹』と呼ばれるキノコの力を使えば、ビスコを小さくした花や、北海道を侵食している花を払うことができるかもしれないという情報を聞きつける。

ということで目的は決まった。この『霊雹』の力をどうにかして借りるのだ。

その『霊雹』を操る力に長けた『霊雹の手』ことカビラカンの元への案内人として、チャイカと共に道なき道を進む長い長い冒険が始まる。

 

北海道の探索は簡単ではない。

まず侵入するためには巨大な歯が並んだ口から侵入するしかない。この歯に押しつぶされようものなら、たとえビスコといえども死ぬしかない。しかも子供の姿となって弱体化しているとなると、その苦労はことさら増す。

口に入り体内へと進んでいくには食道を下り、胃へと落ちていく。その過程には、体内に入ってきた細菌……まぁ、人も北海道からしたら菌みたいなものだろう――を倒すべく、白毛抗体が襲い掛かってくる。こいつは無限に数を増やして襲ってきて、反撃すればその分より勢力を増して襲ってくるという厄介な性質を持っていた。

胃では食べ物を消化する酸や、消化を助ける酵素・アカゴダマムシが襲ってくる。溶かされるというのは怖いのだが、加えて尋常ではないほどに熱気に包まれ、消化と脱水のダブルパンチで危機的状況に追い込まれていく。

しかし、そんな状況になって、かつて色々とあったクサビラ宗の僧正アムリーニ・アムリィが登場する。久しぶりの顔見せである。どうやら北海道に大陸と一緒に喰われてしまい、この北海道の胃に流れ着いたようだ。

そうしてパーティメンバーに真言の使い手が増え、旅は楽になった……と言えれば良かったのだが、その行く手を阻むのが、シシの寒椿の力で使役された者達であったり、シシ本人だったりである。

ビスコが小さくなってしまった影響で、本調子ではない代わりに、小賢しくも力業な作戦で突き進んでいくビスコとミロ。これまで潜り抜けてきた修羅場に比べれば大したことないとでも言わんばかりに、無茶苦茶な戦いを繰り広げていく。

 

何度でも言いたい。この作品の設定は無茶苦茶であるようで筋が通っており、ビスコ達の行動は荒唐無稽のようで最短経路で物語が進んでいく。そうしてテンポ良く進展が生まれ、全く飽きがこないようになっている。

これまで『天陽』のキノコの胞子を身体に宿したり、真言の力を得たり(これはミロだが)といったパワーアップイベントが起き、チート化しているのだが、それでもチート感がないのはビスコのキャラクター故か。この巻に限って言えば、ビスコが子供化していたからかもしれないが。

第四巻のラストも先が気になる終わり方をしていたが、この第五巻は紅菱の念願や因縁に終止符が打たれ、納得のいく結末が用意されている中、新たな戦いの幕開けを告げる怒号も上がっている。

奇跡的なバランスと熱量、勢いでこの第五巻も描かれていた。大満足の一冊である。

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