※ネタバレをしないように書いています。
無自覚世直しファンタジー
情報
作者:秤猿鬼
イラスト:KeG
試し読み:骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中 I
ざっくりあらすじ
MMORPGプレイ中に寝落ちしてしまい、目が覚めるとゲームキャラである骸骨騎士の姿で異世界に放り出されていた「アーク」。討伐対象となりうるアンデットの骸骨の姿をしていることを隠し、傭兵として目立たぬように生きていこうとするが、目の前で行われる悪事は見過ごすことができず、次々に首を突っ込んでいく。
感想などなど
自分で自由にキャラメイクできるゲームをプレイする際、みなさんはどんな外見にするだろう。たとえリアルが男性であっても、女性キャラクターを動かしても良いし、人外の姿になっても良い自由さが、現実とは違う仮想世界だからこその楽しみ方ではないだろうか。
現実とは違う自分になりたい。ロールプレイとはそのような役割を演じ、世界に溶け込むことができる唯一の方法な気がする。
本作の主人公にそのような考え方があったかは定かではない。しかしながら、彼は人の姿ではなく、骸骨騎士という特殊な姿でゲームを楽しんでいた。課金を費やし、時間を溶かし、とてつもない強さを誇ったもう一つの自分……まさか寝落ちしている間に、そんな骸骨騎士に自分がなっているとは思いも寄らなかったであろう。
人としての心を持ちながら、人ではないアンデットの骸骨騎士として世界に迷い込んだ主人公「アーク」。そのおどろおどろしい見た目に反して、彼は傭兵として旅をしつつ、見かけた悪は断罪していく正義として生きていく。
人身売買が横行し、亜人の人権が保障されておらず、奴隷の文化が根強く残った社会情勢。現代の奴隷のない分け隔てなく平等という人権意識を持った骸骨騎士にとって、息苦しく酷い世界に見えた。
気を抜けば山賊に襲撃され、屈強な男達はまず殺され、女は○されるのが当たり前。綺麗な水と治安を当たり前に享受する日本で生きた主人公にとって、気を抜くことのできない治安の悪さは息苦しかったかもしれない。
それらを前にしても、どんな攻撃すらもはじき返すほどに骸骨騎士は強かった。彼が当たり前にするようなことも、この世界の住民にとっては驚くことばかり。
骸骨騎士は【次元歩法】と呼ばれる『目に見える範囲ならば瞬時に移動することができるスキル』を持っており、これを移動手段や戦闘時の裏取りに使っていた。これはこの世界における失われた技術であるらしく、かなりチートな技となっている。
なにせこの世界における最速の移動手段、馬車よりも速い。魔力を消費するデメリットを差し引いても、チートと言わざるを得ない。作中、このスキルを使っての奇襲攻撃をする場面があるが、相手は何もできずに死んでいった。
彼が持っている武器は神話級というクラスに分類される。クラスに関して明確な説明は作中で見つけられなかったが、主人公の語り口調を鑑みるに最高クラスの武具なのだろう。
アークが武器を振るえば、この世界の兵士達が恐れおののくようなモンスターも、あっさりと一刀両断されていく。アークが先に倒してしまうせいで、遅れてやって来た兵士達の反応を見ることで「あいつってそんなに強いモンスターだったんだな」ということを知ることになる。
世界を変えると言っても、それは簡単なことではない。
この世界では亜人(とくにエルフ)は人間から見下され、人権というものがなかった。一応、エルフの国との間に条約が結ばれ、奴隷として狩られることはない……と表向きはなっていた。
しかし、裏ではエルフ狩りが行われ、奴隷市場ではエルフが取引されているという現実がある。骸骨騎士は寝落ちして起きたら、そんな異世界にポツリとやって来て、最初は目立たぬように傭兵としての依頼をこなしつつ、ひっそりと生きていこうとしていた。
そう、普通にひっそりと生きていくはずだったのだ……その歯車が狂い始めたのはどこからだったか。
まず彼が異世界にやって来て、何も分からず気の赴くままに【次元走法】を駆使して移動していた時である。とある国の姫君が乗っている馬車が、山賊の襲撃を受けていた。一応、姫君が乗っているということもあり、それなりに強い護衛も乗っていたはずなのだが、搦め手に次ぐ絡め手により敗北。姫君は乱暴に扱われ、服を脱がされ、山賊の男の一人が下着を脱いでいるところに骸骨騎士がやって来た。
そしてそのまま山賊共を皆殺し。彼女が偉い人の娘だとは知らぬまま救ったことになる。アークはその報酬を、「自分の姿骸骨騎士だし、ひっそりと生きたいし」ということで断りつつ傭兵として生きていく術を少しずつ学んでいく。
後になれば、この時点で歯車はがっつり狂っていたのだろうと分かるが、アークの運命が確定したのはエルフとの出会いだろうか。
森を散策中に、エルフ解放のために奮闘するダークエルフの娘・アリアンと出会い、彼女にエルフ解放のための戦って欲しいと雇われる。そこからアークはエルフの奴隷市場や、エルフの奴隷売買を黙認し、自らも買って色々している領主の城への強襲など、積極的に首を突っ込んでいくことになる。
本作の紹介として、『無自覚世直しファンタジー』という文言が使われていることがある。ここまでやっておきながら無自覚というのは、些か無責任なのではないかという気さえする。
しかし、彼が山賊から奪った剣を売り物がなくて困っていた商人に売りさばき、その商人の行動が巡り巡って世直しに繋がったり、彼が助けた少女の行動が巡り巡って世直しに繋がったりする。
そういった群像劇的な側面が、『無自覚』に繋がっていくということなのだろう。
「小説家になろう」に代表されるネット小説を書籍化した際、一巻でキリの良いところで終わるということはなかなかない。本作も例外ではなく、一巻も二巻も、なんともいえない微妙な場面で終わっている。
とりあえず本作が気になっているという方は、ひとまず四巻まで買うことをおすすめしたい(せめて三巻)。