※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
目的を持たざる者と夢を抱く者。
情報
作者:支倉凍砂
イラスト:鍋島テツヒロ
ざっくりあらすじ
異教徒最大の鉱山の町カザンに、近々入植があると気づいた錬金術師クースラとウェランド。それは、今住むこの町が戦いの最前線ではなくなることを意味していた。二人は何とか手柄を立てて、入植の部隊に配属されるように画策する。
そんな中、伝説の金属ダマスカス鋼の噂が舞い込んでくる。どうやら鍛冶屋組合の若き長のイリーナがダマスカス鋼の作り方を知っているらしい。
呪われた一族の生き残りフェネシスと眠らない錬金術師クースラ。遙か遠くのその先の世界を目指す物語の幕開け。
感想などなど
難しい。
読んでいて思ったのはそんな感想だった。
元々扱っているテーマが“貴金属の製錬”というこれまた分かりにくく、難しいものである。いっぱい知らない鉱石の名前が飛び出してきても、何を言っているのか分からないという人がほとんどだろう。まぁ、それはいい。とりあえず「ダマスカス鋼という伝説の金属があって、作ることが難しいんだなぁ」程度の知識で話の大筋は理解できる(……はず)。
自分が難しいと言ったのは、フェネシスとクースラの話の掛け合いだ。
フェネシスが呪われた一族の唯一の生き残りであって、獣の耳が生えていて、白い目で見られ続けていて……という山盛りの不幸属性である。
そんな彼女に対してクースラは色々と言葉をかける。時には厳しく、時には優しく。
その会話には目的や夢という言葉が度々出てくる。クースラがフェネシスに望む何かがあることは何となく分かる……分かるが……それでもやはり難しいということには変わりない。そんな会話の掛け合いが所々、かなりの割合で挟まれている。話の本筋よりもかなり記憶に残ってしまうほどだ。
しかし、この夢や目的というものがこの物語の根幹に関わっていることが分かったとき「あぁ、そういうことか」とようやく納得ができた。
この物語において重要なキーワードは夢である。
主人公クースラが抱く夢はタイトルにもなっている通り「マグダラの地にたどり着く」のことだ。では、フェネシスの抱く夢とは何なのだろうか? いや、夢を持っているのだろうか?
他の町にいる人々は夢を持っていないのだろうか?
さて、夢を抱いている人の全ては、その夢のために努力できているのでしょうか。夢を捨てざるを得ない人もいるのではないのでしょうか。
話の本筋は「新しい技術があるかもしれない遠方に行く」ために「ダマスカス鋼」を作る、方法を知っているかもしれない人を味方につけるというもの。「かもしれない」とかはっきりとしないことが多いけれども、錬金術自体謎が多い技術であって、そのためには何でもするという錬金術たちの執念が垣間見える物語でした。