工大生のメモ帳

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とらドラ9! 感想

【前:第八巻】【第一巻】【次:な し】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

ラブコメの名作。

情報

作者:竹宮ゆゆこ

イラスト:ヤス

ざっくりあらすじ

冬の雪山で、思いがけず大河の思いを知ってしまった竜児。一方そのことを覚えていない大河。そんな彼女を前にして、態度を決めかねている竜児だったが……

感想などなど

クリスマス、いないサンタを孤独に待ち続ける大河を救ったのは、実乃梨ではなく竜児だった。そして、雪山で谷に落ちてしまっていた大河を救ったのも、同じく竜児だった。それよりもっとずっと前、大河が間違って入れてしまったラブレターを見て、馬鹿にするでもなく励ましたのも竜児だった。

大河が竜児に対して恋心を抱いたのはいつからだったか。

明確に指摘することはできないが、意識し始めたのは間違いなくクリスマスで涙を流したときだろう。彼は実乃梨が好き、だから彼女と彼をくっつけるために行動している最中、自身が抱く思いに気付くというのは、皮肉めいた残酷さである。

実乃梨は彼女の親友として、亜美はただの傍観者として、そのことを知っていたのだろう。だからこそ実乃梨は振ったし(第九巻で彼女が振った心境も語られる)、亜美は竜児に「いつまでお父さんでいるの?」と言いつつ、ずっと「バカ」だと言い続けた。

竜児は大河の思いに、彼女の朦朧とした意識が竜児と北村を誤解したという偶然で知ってしまった。そして彼がとった行動は、北村も巻き込んで『嘘』をつき、隠し通そうとするというものだった。

関係性が壊れてしまわないように。

 

そんな一触即発の恋愛模様に加え、今回は竜児を取り巻く家庭環境というものにも言及されていく。具体的には『竜児に期待する母親と、竜児が抱く思いの齟齬』だ。

学校は進級を間近に控えているということもあり、理系・文系のクラス分けのため進路調査書というものが配られた。皆が皆、思い思いの進路というものを書き込んでいく中、竜児は悩んでいた。

大学に行くということにはそれなりのお金がかかる。国立は私立に比べ、いくらか授業料が安くなるとはいえ、一般家庭にとってのお手軽価格とは言えない。特に竜児の家庭は片親だ。母親の仕事が、めちゃくちゃ稼げる仕事だとは到底思えない。家計を圧迫するというのは、想像に難くない。

竜児は考える。これ以上、母親に無理はさせられない。彼の中での大学進学という候補は消え、就職への道を考え出す。

しかし、母親は息子に『勉強して欲しい』と願っているようだ。勉強して、勉強して、良い大学に行って、普通の生活というものを歩んで欲しい、そう口にする。

自分にはできなかった人生というものを歩んで欲しいという期待なのだろう。勉強してこなかったからこそ、その苦労や苦しみ、「勉強してくればよかった」という後悔が、彼に同じ道を辿って欲しくないという願いなのだろう。

この齟齬こそが、竜児にとっての初めての反抗というものを引き起こさせた。

これまで「勉強ができなくなるから」という理由でさせてもらえなかったバイトを、自分で勝手に強行するという暴挙に。

 

そんな家庭の不和と同時に、壊れてしまった人間関係というものも進行していく。それが元に戻る形なのか、全く別の場所へと消えていくものなのかは定かではない。しかし、全てちょっと触れれば壊れてしまいそうだというのは、最初に語った通りだ。

皆が皆、嘘をついていたり、隠し事をしていたり……それらの全てが明るみになったとして、その先には何が待っているのだろうか。

きっと誰にも分からない。

この作品が迎えた結末の評価は、読者の想像力次第であるように感じる。結末から先、待ち受けている未来に希望を感じられるか? ブログ主としては、みんなが幸せな人生を歩んでいくことを願っている。

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