※ネタバレをしないように書いています。
最高の一杯を求めて
情報
作者:早川パオ
試し読み:まどろみバーメイド 5巻
ざっくりあらすじ
屋台形式でカクテルを出してくれる店を運営する雪の物語。
「ヒノサキ」「取引」「原初のカクテル」「オータムイズカミング」「ブリッジ」「ザ・ナイト・ビフォア」「マイカラー」
感想などなど
「ヒノサキ」「取引」
第四巻のラストで美女軍団に拉致されていった日代子。そんな事件の犯人は、彼女の姉達。目的は大企業グループ・ヒノサキグループの娘である日代子を、神代グループの跡継ぎである息子をくっつけるさせることで、落ち目であるヒノサキグループへの援助を取り付けさせるよう図ろうとしているらしい。
という訳で進んでいく縁談。神代グループの跡取りである神代祐樹は、「結婚したらすぐにでも家庭に入って欲しい」と告げ、その暁にはヒノサキグループを支援することを約束してくれていた。その話がまとまれば、ヒノサキグループは息を永らえることができるも、日代子のフレアバーテンダーとしての道は閉ざされることとなる。
そんな話に割り込んでくる二つの影……雪と樹帆。友達として、彼女からバーテンダーとしての道を奪わないで欲しいと懇願する。その流れに、日代子が働いているBARストリームの店主・人見さんまで入ってくる。
「勝手にスタッフを連れて行ったのはあなたたちですか?」と告げる店主。強い。
そんな彼に対しても、「バーテンダーなんて誰でもできる仕事」と告げる姉。フレアバーテンダーのやっていることを、「お手玉」「投げてひょいっと取るだけ」だけだ、と。そんな水商売を続けるよりも家に戻って結婚しろ、と。
大道芸で使われるジャグリングのボールの重さは、おおよそ百グラムほど。一方、フレアバーテンダーが使うボトルは五百グラム。その重さは演技中に流動的に変わっていく。そんな液体入り蓋の空いたボトルを、零れないように回転量を調整して投げ、必ずボトルネックでキャッチする。
そんな芸当、皆さんに一朝一夕でできるだろうか?
並べ立てた説明を見ただけで、その難しさは伝わってくる。だからといって、縁談をぶち壊されてはたまったものではない姉達に、人見店主は一つの取引を持ち掛ける。
「一か月後に杉並区民祭という野外イベントがあり、そこで日代子単独で4アイテムのライブをさせる。そこで『誰でもできる』と思われるような仕事をしていた場合、実家へ帰らせる」
というもの。日代子のことを自然と見下してきた姉たちに見返すことはできるのか? 一か月の長いようで短い特訓が幕を開ける。
「原初のカクテル」
カクテルは禁酒法下のアメリカで、素人が作った安酒を美味しくするために編み出された技術である(ジュースと偽装する目的もあったらしい)。そんなカクテルの歴史は、氷の歴史と共に語られる。現在飲まれているレシピは、製氷機の発明以降に作られたものばかりで、全ての工程で氷を使われる。
今回、紹介されるカクテルはジンアンドイットは、そんな製氷機が作られるより前に生まれた『原初のカクテル』である。常温で、しかもシェイクの機材も技術もいらない。ジンとベルモットを底の深いカップに入れてゆするだけでできるというお手軽感から、かなりガツンと来るアルコール濃度。
それでもカクテルとして美味いというのだから、カクテルというものの奥深さを実感させられる。
「オータムイズカミング」
エリシオンの男達が居酒屋に集っての飲み会。お酒を飲みつつ語られるお酒と、女性陣の話で盛り上がる。近年のお酒のトレンドだとか、OGである月子は機能性を言い訳に綿のパンツを履いているとか履いていないとか(実際、履いてるんだよなぁ)。伊吹騎帆はストイックで近寄りがたいとか。
そんなカオスな状況から、早馬支配人と余呉チーフによる腕比べが、居酒屋にて唐突に始まっていく。お題はテキーラ発祥の地、メキシコでのテキーラの基本的な飲み方であるマルガリータ。テキーラとライムと塩とホワイトキュラソーの組み合わせが一体となって、爽やかで品のある酸味が醍醐味のカクテルとなっている。
早馬支配人が出したカクテルはそんなマルガリータの基本を突き詰めたもの。彼の持つ腕の高さはもちろんのことながら、元々のレシピの完成度の高さも相まって無駄なものを加える方が不味くなる。
だが、そんなマルガリータに一工夫を加えた余呉チーフ。塩で白いはずのマルガリータがピンクに彩られ、つぶした苺が最高にマッチしている。カクテルは進化し続けるということを、まざまざと見せつけられた一話であった。
「ブリッジ」
レストランでワインを提供するソムリエ・海神さんがエリシオンのバーに派遣された。季節のおすすめカクテルに合うようなワインを選んで来いという難題を押し付けられ、悪戦苦闘する彼女は、月川雪の経営する屋台バーに辿り着いた。
もはや便利屋として扱われつつある彼女は、ワインを使ったカクテル――しかも一流ホテルにふさわしい銘柄の良さが出たカクテル――を考えて提供する羽目に。といっても、そんな要望を満たすカクテルを颯爽と出してしまえるのが、彼女のすごみな訳だが。
出されたカクテルはサイドカー。ここで詳しい方ならばすぐ分かるのかもしれない。サイドカーにはワインは使われていないのだ。
雪はサイドカーのアレンジにワインを使ったのだ。それは和栗というカクテルに到底使えるとは思えないような食材を使い、立体感があって凝縮された芳醇な味わいを実現したのである。
最初は汚い屋台で享楽でカクテルを出すような馬鹿だと思っていた雪に、これほどのカクテルが出せると思っていなかった海神の苛立ちと、まさかの展開……世の中にはいろいろな人がいるのだなぁ……と思わされる話であった。
「ザ・ナイト・ビフォア」「マイカラー」
ついに来てしまった杉並区民祭。一か月もの間、描写はあまりないが特訓に明け暮れていた。ダイエットによりずれてしまった動きは整えたし、雪に相談していたカクテルも完成したらしい。「失敗する可能性の方が高い」と話す人見店主だが、彼女のようなまっすぐさは忘れたくないとも語る。縁談相手である神代家長男も、日代子さんのような人はいつまでも輝いていて欲しいと願うが、周囲の環境はそれを認めない。
様々な人の思惑が入り乱れた区民祭が始まる!