※ネタバレをしないように書いています。
最高の一杯を求めて
情報
作者:早川パオ
試し読み:まどろみバーメイド 4巻
ざっくりあらすじ
屋台形式でカクテルを出してくれる店を運営する雪の物語。
「突風」「混乱」「道」「ストーム・イン・ア・ティーカップ」「トランスファー」「ファイヤーワークス」「ラストワード」
感想などなど
「突風」
エリシオンに勤める騎帆のエピソード。
「くじけそうな心を勇気づけてくれる そんな酒ってあるだろうか……!?」という客の要望に応えるカクテルとして、テキーラとカルーアのカクテル『ブレイアブル』を出した。『ブレイアブル』は和訳で勇敢な雄牛。闘牛のような勇敢さを持つことができるような酒である。
しかし、客の反応は芳しくない。「意気地のある人間じゃなくてね……」と。
それに対して、『ブレイアブル』に酷似したカクテルとして、レモンピールによる香り付けとグラスを変えただけのカクテル『ピカドール』――闘牛で槍を持ち牛と戦う槍士を意味する――を提供した騎帆。お洒落だ……こういうセンスがバーテンダーには求められるのかもしれない。
「混乱」「道」
羽室香美恵(安室奈〇恵かな?)の引退ライブの難民が、大挙してやって来たことでてんやわんやの状態となってしまったエリシオン。さらに支配人の娘が行方不明になってしまった事件も重なってしまう。
提供スピードを上回る客の入り。フラストレーションが溜まっていく客と、焦りからミスをしてしまう従業員達。この悪循環を打開するために、プレミックス(作り置き)をするかどうかの選択を迫られる支配人。しかし、ここは天下のエリシオン。一杯で四桁の金を取る。
特別な一杯を提供すべきエリシオンで、作り置きなんて作れない。それは修羅の道かもしれないが、長い目で考えて、プレミックスはしない選択をした。
地獄のような現場。状況は悪化の一途を辿る。
それでもエリシオンとしてのプライドのため、最高の一杯のため、我が道を進まんとするバーテンダー達の生き様は格好いい。全てが終わった後のエピローグ含め、印象に残るカクテルが多い話であった。
オールドファッションとか、名前だけ聞いたことあるカクテルとか飲んでみたいなぁ……ただ一杯四桁かぁ……。
「ストーム・イン・ア・ティーカップ」
抜群のプロポーションを保つために努力する日代子と、現在の口調や見た目から元ヤンと勘違いされがちな騎帆、今も子供パンツを履いている雪、三人が過ごす日常を切り取った一幕。とても賑やかである。
明るく無邪気に見える日代子が、以外にも虐められていた過去があったり、騎帆が昔は真面目な学生だったりと意外な一面を見つつ、バーテンダー三人だからこそ出てくるカクテルだったりも見所だ。
「トランスファー」
バーでの仕事はカクテルを作るだけではない。作られたカクテルをテーブルまで運ぶことこと、そしてグラスをテーブルに置くことも大事な仕事であり、そしてそれぞれテクニックがある。
例えば。
グラスをのせたトレイの持ち方は三点方式(パチンコ店が使う営業形態の名前ではない)と呼ばれ、三本の指で支え、二本の指で微調整するという不安定そうにみえて一番安全な運び方が使われている。
グラスの置き方一つとってしても、極力音を立てないために、テーブルとグラスの間に小指を挟み入れ、小指を抜きながら置くという手が使われる。勉強になるなぁ。
そんな基礎をたたき込まれつつ成長していく若尾さんのこれからに期待したい。
「ファイヤーワークス」
シャノン、雪、祥子の美人が浴衣を着て祭にやって来て、荒らして回る話となっている。シャノンが「可愛すぎるバーテンダー」として有名になっていたり、祥子さんは浴衣だと下に何も履いていなかったりと、色々と衝撃的事実があっさりと明かされつつ、そういえばどこにでもついてくるシャノンの姉・アシュレイは……? という違和感が最後に一気に解消されていく展開は短いながらもまとまっていて見やすい。
ファイアーワークスというタイトルに相応しい美しいカクテルも登場し、カクテルが持つ表現力の豊かさには驚かされる。ただお洒落なだけでなく、味としても美味しいというのだから、カクテルの世界の奥深さには感服である。
「ラストワード」
タイトルはカクテルの名前である。身体を回復させ不老に導くという伝承と、その複雑な味わいから「リキュールの女王」と呼ばれる『シャルトリューズ』を使っている。そんなカクテルを飲み、「(バーテンダーは)お酒同士ただ混ぜるだけで仕事になるんだから うらやましいわ」と告げる客。全く良い性格してやがる。
そんな客が日代子を誘拐していったというのだから衝撃展開である。日代子の運命はいかに。