工大生のメモ帳

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アンダカの怪造学Ⅰ ホームレス・フェニックス 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

現界と虚界

情報

作者:日日日

イラスト:エナミカツミ

ざっくりあらすじ

虚界という異世界から、今いる現界へ魔物を呼び出して使役する《怪造学》。その界隈では天才と呼ばれていた空井滅作の娘、空井伊依は夢を叶えるために《怪造学》を学ぶことができる学園へと入学を果たす。

感想などなど

皆さんは、ポケモンやドラクエモンスターズというような、モンスターを育成して闘わせるゲームを遊んだことはあるだろうか?

ストーリーだけならば、好きなモンスターのレベルを上げられるだけ上げれば、大抵の場合クリアできるようになっている。まぁ、ある程度チームのバランスなど考える必要はあるだろうが。

しかし、オンライン対戦の世界では無常な世界が広がっている。ストーリーをクリアした仲間で乗り込んで行けば、返り討ちに遭うこと必死。最適化に最適化を重ね、オンラインの戦場に漂う潮流を読み、育てる仲間に厳選し尽くした先に待っている勝利。好きなモンスター次第では全く役に立たないということも珍しくない。

本作においても、虚界から呼び出した怪造生物を使役することで、様々なことに利用する。それら呼び出された怪造生物は、戦闘力や所持する能力、呼び出す難易度、使役する難易度などによってランク付けがなされる。ランクが低ければ呼び出す価値はなく、高ければ高いほどよい……そういう世界だ。

しかしランクが高い怪造生物を呼び出すのは難しい。まぁ、呼び出すことに成功すると強く便利なのだが。ある種、とても浪漫ある学問だと言える。

しかし、同時にとても危険な学問である。

 

空井滅作という男がいた。彼は《怪造学》の世界では天才と呼ばれていた。若くして教授としての資格を得、数々の新発見を重ね、《怪造学》の進歩を百年進めたとされていた。

そんな一人の天才は、とある怪造生物を呼び出そうとした末に死んだ。

彼が呼び出そうとした怪造生物の名は――魔王。虚界の頂点に君臨せし存在は、一人の天才の手には余る存在だったという訳だ。

しかし、流石は天才。ただでは死なない。自身の魂をとある首飾りに移して生き残った。

その首飾りの所持者であり、ある種の呪いのようなもので身から離すことはできなくなってしまった少女こそが、本作の主人公、空井伊依である。

 

彼女は怪造生物を愛していた。ただその愛情の注ぎ方というものが、《怪造学》を志す人々の中ではかなり異質なものであった。

最初に述べた通り、怪造生物というものはランクが高ければ高いほど、世間からの評価も高くなる。そのため学者達は必死でランクが高い怪造生物を呼び出そうと躍起になるのが常だ。

しかし、彼女の場合はその怪造生物にランク付けを行う《怪造学》に懐疑的だった。「戦闘力でランク付けするなんて納得できない」「怪造生物は平等」だと主張する彼女に向けられる周囲の視線は冷たい。

《怪造学》を学ぶ高校の受験の際、「好きな怪造生物を呼び出す」という実践形式の試験があった。その試験はランクが高い怪造生物を呼び出すことができればできるほど試験の点数も高くなるという分かりやすい内容である。

そこで彼女は自身の我を通し、好きな改造生物として低ランクの《雪童》という怪造生物を呼び出す。

当然、試験の点数だけでいえば……かなり低いと言わざるを得ない。しかし試験監督の教授達にとってはかなり印象に残る内容となっていたに違いない。

まるで友人と接するかのように《雪童》にあだ名をつけている。名前をつけて呼ぶなんてことは、実験動物のモルモットに愛称をつけるようにあり得ないこととされていた。

怪造生物を使役することができるとは言えど、不可能な命令に従う怪造生物はいない。しかし彼女の呼び出した《雪童》は、死んでもおかしくない、不可能とも言える命令を受け入れ実行した。それは試験監督の先生達にとっては、驚き以外の何物でもなかった。

……彼女は低ランクの怪造生物で、夢を叶える偉大なる一歩を歩み出したのだ。

 

これまで弱いとされていたモンスターに焦点を当てて、ゲームをクリアしていくような感覚に近しい体験を、本作ではすることができるようになっている。

それは本当に怪造生物を愛していなければできない芸当で、ゲーム実況者が本当にゲームが好きで好きで仕方がなくて実況しているんだな、ということが画面を通して分かるような感覚に近しい気がする。

笑いあり、興奮ありのライトノベルらしいライトノベルであった。

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