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ガーリー・エアフォースⅫ 感想

【前:第十一巻】【第一巻】【次:な し 】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

彼・彼女達の短編集

情報

作者:夏海公司

イラスト:遠坂あさぎ

ざっくりあらすじ 

米国にて新たなドーター適合機が発見されたとして、調整のために小松にやって来ることになった。妹ができると期待に胸膨らませるグリペンだったが……その他、グリペン、イーグル、ファントムそれぞれの前日譚に、ベルクトと愉快なロシアンアニマ三人衆達による日常など。短編六編を収録。

感想などなど

まず最初に明言しておかなければならないのは、第十二巻にて描かれているエピソードの全てが、結末の前日譚であるということだ。最後、世界を守るためにザイと共に消えてしまったアニマ達にとっての日常……この後、彼女達の迎える結末というものを考えると胸が締め付けられる思いだ。

そして、このガーリー・エアフォースもこれで終わる。人生に出会いがあれば別れもある、双方にとって最良の別れであることを願う。

 

「ドリームウィーバー」

米国にて新たなドーター適合機が発見され、日本にて調整することになった。つまりは新たなアニマが生まれたということを意味し、グリペン達の妹の誕生も同時に意味する。

機体はXF-108ーAM、愛称はレイピア。

実はこの機体、実際に運用されることなく開発中止になっものである。その上、時代はそれなりに古い。機動性よりも速度や高度が優先された時代の遺物であるらしく、作られた目的も高く飛んでミサイルを撃ち出すこと。空戦というものは目的の中に入っていない。HiMATという超高機動を期待できるかと言われれば首を傾げざるを得ないということだ。

しかし、彼女がアニマであるという事実には変わりない。戦闘力として使えるのであれば、是非とも利用していきたい。しかも可愛い。銀色の髪に長い睫毛、表紙に載っている女の子を見て貰えば分かって貰えるだろう。

ということでイーグルやファントム、グリペンと模擬空戦をすることになる訳だが……どうにもおかしい。

Serching for Damsel

模擬空戦が終わった時、唐突にそんなメッセージを慧に送ってきたレイピア。ちなみにDamselというのは未婚女性の乙女というものを表しているらしい。

つまりは「レイピアは模擬空戦をしながら乙女を探していた」ということを意味する。はっきりいって意味不明だが、アニマは例外なく変人奇人の集まりなので、この程度で驚くことではない。

次の違和感は、彼女だけでなく慧達を取り囲む周囲の変化である。その違和感を挙げていくとキリがないが、

例えば。

世間でUFOの目撃条件が相次いだ。ザイのように人類に攻撃するのではなく、あくまで出現して目撃されているだけの存在であるようだ。

例えば。

我々が生活するにはなくてはならないGPSという存在がなかったもののように扱われている。どうにも通信機器に関する技術というものが一世代ほど遅れているように感じる。

例えば。

敵の情報を探るための人工衛星の存在が忘れられている。ザイの情報を探るために必要不可欠だったはずが、誰もそれを利用しようとはせず探索機を派遣しようとしていた。

……というように、レイピアが来てからというもの周りがおかしい。そのことに気がついていたのは、慧とファントムとグリペンだけ。その中でも特にグリペンが鍵を握っているようではあるが、彼女は直接的に解決に動こうとはせず、ファントム達が奮闘することになる。

……ざっと説明すると、このような内容だろうか。ここで考えるべきは『誰が犯人か?』ではなく、というかレイピアが原因であることは明らかなので、『彼女がどうしてこのようなことをしたのか?』ということを知らなければいけない。

それを考える上で重要になるのが、彼女が探しているという乙女の存在だ。

完結したとは言え、未だ謎の多いアニマの実態に一つ踏みこんだ内容であり、割と日本崩壊のピンチにまで追い込まれた事件だった。短編ではあるものの、もっと練れば長編で一つ書けたような気がしないでもない。

 

「プリンセス・イーグル」

イーグルと八代通がいちぃちゃする話。どことなく犯罪臭のする光景ではあるが、その実態は、ただひたすらにイーグルが欲しいと言った物を買ってあげるために八代通が奮闘するという、ほんわかする話である。

イーグルは良い子、これは皆で共有すべき事項であろう。

 

「シアターブルー」

資金を融資して貰うために、ドーターが凄いということを上層部に見せつける用の曲芸飛行を企画した八代通。そのために抜擢されたメンバーはファントムとイーグルの二人(グリペンは人を乗せているので駄目だった)。

しかし、やる気を見せるイーグルとは裏腹に、嫌がるファントム。理由は「あの脳天アッパラパー娘にこなせるとは思えない」からであるらしい。

素人が考えてみても、二機が見せる曲芸飛行はそうとうに息が合ってないと無理な芸当だろう。一歩間違えれば激突し、二機のアニマが失われることになる。日本を守るための予算を獲得するための曲芸飛行にて、機体が失われてしまうなんてギャグにしては笑えない。

ということで。

何とかしてイーグルに断って貰おうと――どうにも八代通はイーグルに弱い――画策するもイーグルは予想以上にやる気であった。そうして頭を抱えるファントムが可愛い。それだけでも一読の価値がある。

そして慧とファントムの関係性というものもたまらない。あとの展開を考えると泣けてくる。

 

「フェイクモニュメンタリー」

宣伝のための動画を撮って編集したという八代通。その動画を見ながら、ただひたすらに慧が突っ込んでいくという内容。アニマは皆かわいいが、機密の塊かつ変わり者の彼女達を普通に撮影できるはずなどないことは、想像に難くないだろう。

グリペンはずっと食べて寝てるだけだし。

イーグルはお酒飲んでるし。

ファントムは(この文章はハッキングされました)。

 

「トリコントロール・ヴィント」

ここではグリペンとイーグルとファントムが慧と出会う前のエピソードが描かれていく。

グリペンの場合、慧が中国から脱出する際に助けに向かう第一巻の内容の少し前の話だ。これまでずっと眠り姫だった彼女が、何かの目的を思い出したかのように目を覚まし、戦場へと向かっていく。

イーグルの場合、やっぱり酒を飲んでいた。そこで少しばかり彼女らしくない話をする。あなたなら「一ヶ月後にあなたは死ぬ」と言われたら、どんな反応を示すだろう。アニマである彼女は、それ分かれば、一ヶ月の間にできることの全てをやってみせるのだ、と良い笑顔で語るのだ。

ファントムの場合、彼女が何千回と繰り返した人類を守るシミュレーションを繰り返していた。その様は正しく地獄で、彼女が涙を流さなくなったのは、一体何回目だったのか。それを知っている人はいないだろう。

 

「ザ・ラスト・バタフライ」

宇宙から帰還したベルクトと、ロシアンアニマ達による交流回。日本アニマ達とは色々あった彼女達であるものの、日常ではこんなに可愛かったのか……そして変人だったのか。最後にして様々な属性が付与されていく面々には、思わず口角が上がる。

ロシアンアニマ達の扱いも、ロシアの上層部達は頭を抱えていたのでしょう。みんな良い子でした。

 

読んで良かった。良い別れができたと思います。

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