工大生のメモ帳

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キーリⅡ 砂の上の白い航跡 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

砂の海の終着点。

情報

作者:壁井ユカコ

イラスト:田上俊介

ざっくりあらすじ

 霊の見える少女・キーリと<不死人>ハーヴェイ、ラジオに憑依した兵長の三人は、砂の海を走る船に乗り込む。普通の航海ができるはずもなく、厄介ごとに巻き込まれていく。

感想などなど

 前回(キーリ 死者達は荒野に眠る)は、ハーヴェイが教会に捕まり(殺され)ながらも、キーリと兵長の二人で彼の心臓を取り戻し、教会から逃げながらでありながらも三人の旅が続けられることになりました。いつか来るであろう別れの悲しさよりも、今を三人で生きていくことを選んだということでしょうか。

ということで第二巻。旅の明確な目的があるというわけでもなく、とりあえず船に乗ろうという安直な始まりです。

船といえば海。海と言えば水。あたりまえの連想ゲームですが、この作品では通用しません。なんと海面を覆うのは、光煌めく水面ではなく、ざらつき渇いた砂です。

砂がうねり波だっている様を想像して下さい。もしくは底なし砂漠でしょうか。現実では見られない幻想的な世界が広がっています。

 

物語のプロローグは前回の傷を癒やすところから始まります。<不死人>と言われるハーヴェイといえど、右腕が吹っ飛んでしまったら、修復されるまでそれなりの時間がかかるようです。「3年くらいかな」と彼は軽く語りますが、3年は短いようで長い期間です。生活にも困るでしょう。

まぁ、ハーヴェイは特に気にも留めていないですし、キーリも焦ったところでどうしようもないと分かっています。

そんな中、船の出航までの暇つぶし(金稼ぎの時間とも言う)の夜。キーリは動く小さなブリキ人形に出会います。勿論、それらは霊に分類されます。しかし、兵長のように死人の憑依霊というわけでなく、人の強い思いが思念として宿ってしまったものでした。日本でいうところの付喪神でしょうか。

そんなブリキ人形に、好奇心の塊であるキーリは付いていきます。そこで動く等身大の人形に出会います。

その等身大の人形の右腕がハーヴェイの右腕になるわけですから、世の中何が起こるか分かりません。霊に愛されるキーリと、何だかんだで優しい<不死人>ハーヴェイだからできる芸当とだけ答えておきましょう。

 

<不死人>であり指名手配されているハーヴェイと、霊の見えるお節介少女・キーリにラジオの憑依霊・兵長の三人が平穏無事な生活を送れるかと言えば、残念なことに無理な話でした。

まぁ、今回に限って言えば運が悪すぎたともいえますが。

船には多くの人が乗っています。当然、全員が全員いい人ではありません。”いい人” にも色々な意味があります。教会側の人間は、世間一般から見ればいい人に入るのでしょう。言わずもがな、ハーヴェイ達にとっては敵に値します。

まさか教会上層部の息子が、この船に乗っているなんて誰に予測できたでしょうか。しかし、乗っているだけならばまだ良かったのですが、キーリとその少年が仲良くなってしまうことが更なる厄介ごとへと三人を誘います。

もっと最悪なのが、ハーヴェイが彼女をほとんど野放しにしてしまっていることでしょう。いや、本人的には野放しにしているつもりはないのかも知れませんが、彼女が好奇心の塊でちょこまかと動き回る少女であるという理解が如何せんまだ足りていません。

「そんなハーヴェイを嫉妬してくれないのだろうか?」という好奇心が湧き上がるキーリを理解しろ、というのは少々無理な話だったのでしょうか?

少年はあまりに幼く、キーリを守るにしても非力すぎて、自分の親の権力を盾に振りかざすも、それは霊や事故に対しては全くの無力です。

最終的には舌打ちをしながらもハーヴェイが助けにいく様が、個人的には好きなのですが、皆さんはどうでしょうか?

 

砂の海……。当然ですが、飛び込めば大抵の場合死にます。そして、その死骸は<終着点>へと辿り付き、そこで風化され砂となって、砂の海の一部になります。

何と言うべきか……とてもきれいな話です。このお話が、この作品の雰囲気を物語っているように思います。

広大な世界の始まりと終わりが、終着点に集約され、何もそれに逆らうことはできない。世界の真理を感じます。

不思議な雰囲気のいい作品でした。

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