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ケモノガリ8 感想

【前:第七巻】【第一巻】【次:な し】
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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

殺意を覚えまして

情報

作者:東出裕一郎

イラスト:品川宏樹

ざっくりあらすじ

ケモノガリとアストライアは、どちらかが死ぬまで戦い続ける。

あすなはケモノガリを救うために島へとやって来る。

世界を賭けた戦いの結末とは。

感想などなど

最初に言わせて下さい。八巻という読みやすい巻数でありながら、これ以上ないほどに綺麗な結末です。作者がやりたいことを全てやりながら、望んだ通りに完結させたということが伝わってきます。

そんな作品に関して、感想を書いていきましょう。

 

現状を少しまとめましょう。

まずは赤神楼樹について。前巻にて ”悲哀” の名を持つ化け物を倒しました。刑務所で死刑囚の子供として生まれ、殺戮するためだけに生きてきた男。その肌はあらゆる攻撃を吸収し、一振りで人一人を粉砕する拳。兵器を相手に対等……いや、それ以上の力を有する存在。

そんな化け物との戦いは、『人を殺す才能』に愛された楼樹が勝利しました。「どう倒すんだろう」という疑問に対して、ドラマを見せながら、説得力を持たせるという構成力。流石です。

次にイヌガミについて。愛する姉のために、殺すという道を選んだ彼は、自身の記憶を犠牲にしながらも、自身の愛を証明しました。血生臭い命を賭けた戦いの結末に、美しさを感じてしまいました。その後、もう犬になっていながらも赤神楼樹を救うために駆けつけたシーンは、思わず涙ぐみました。

最後はシャーリー率いるCIA先鋭メンバーについて。最初は九人いたメンバーも、命を賭けて最善を尽くした。戦闘ヘリと刺し違えたスナイパーの最期は、最高にかっこよかった。死にたがり共め……いや、その言葉はあまりに失礼か。彼らは賭けるべきときに命を賭けた。もうこれ以上の策はないという自身の選択を信じて戦った。

そんな彼らは、最終巻でもしっかりと活躍してくれる。我々読者は辛くとも、読み進めなければいけない。最期を見届けなければいけない。

 

最期の戦いのメインは、アストライアと赤神楼樹との決闘である。集大成とも呼ぶべきその戦いは、見所しかない。

最初にアストライアは自身が何故クラブに来たのかを語ってくれる。ただひたすらに淡々と、自分の友人が惨殺されたことを語り、犯人を鮮やかに殺した手口を続けざまに語る。やはり、彼も楼樹と同様にたった一つのきっかけで変わってしまったようだ。

そして始まる最期の死闘。

赤神楼樹は戦いながら徐々に記憶を失っていく。これまでの出会った人々の顔、思い出――あらゆるものを犠牲にしていく。それに応えるようにアストライアも自身が語った思い出を消し去っていく。戦闘の最中で強くなっていく二人。

どちらがいつ死んでもおかしくない。

緊張感、高揚感――こればかりは読んで貰わないと伝わらないだろう。

 

そんな二人の死闘の間にも、シャーリー達が戦っている。ひとまずの目的は『対空ミサイルの無効化』。これが達成されれば控えている軍隊が、島に入ることができるようになる。最強とも呼ぶべき ”悲哀” を殺し、 ””無垢” を引きつけているとは言え、相手は殺戮を日常的に行ってきた奴ら。いわば殺戮のプロ。一筋縄ではいかない。

次々と仲間達の命が散っていく。しかし、誰一人として無駄死にはいない。仲間を信じて、最善の形で作戦のバトンを繋いでいく。

それも全て世界を救うため……。第七巻に初登場の面々が多いのに、それぞれの戦いにドラマがあるのだ。気付けば全員のキャラクターを覚えているし、それぞれの死に心が揺さぶられている。それも全て見せ方が上手いのだろう。

 

この戦いでもう一人注目すべきは、貴島あやなの存在である。彼女と出会った人間は、彼女も一本ネジが外れていると語る。その意味が今回ようやく理解できるようになっていた。

ここで少し考えて貰いたい。

例えば。例えば、だ。『自分の幼馴染みが、自身を守るために世界と戦っている』という場面を想像……いや、想像できねぇな、これ。

とにかく、上記状況があやなの置かれた状況である。そんな状況に適応し、彼が殺戮を行っているということを理解し、彼を助けるために日本を飛び出し、島の突貫部隊に加わっている。

その彼女の行動力……一種の狂気とも取れる赤神楼樹への想い。さて、その想いが結んだ一つの結末を見届けようではないか。

この物語は『世界を救う戦い』であり、『一人の少女を守ろうとした男』の物語でもある。何度でも言おう、最高の結末だった。

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