※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
死の恐怖を忘れるなかれ
情報
作者:中村恵里加
イラスト:藤倉和音
ざっくりあらすじ
”怪” と人、二つの血を持つダブルブリッドである片倉優樹は、自身の体調がどこか優れないことに気がつく。それは大陸からやって来ている欠陥兵器による影響だと分かるはずもなかった。
感想などなど
海外におけるゴタゴタを経て、やっと平穏な日常がやって来るかと思いきや、何故か事件に巻き込まれていく第六課の面々。今回から、優樹が先生と呼んでいる大田が事務所に入り浸るようになりました。
落花生が大好きで、一言で済むような問答を長引かせるのが得意技。他人を逆なでするような言動を素で行う。日本の野球をこよなく愛しているのは、数少ない愛せるポイントか。そんな彼も元は第六課所属の怪。何やかんやで協力的だったりもする。
今回はさらに元第六課所属の怪とご対面。その名も虎。見た目は高校生で、実際に高校に五年ほど通っているらしい。学業の成績は良いらしいが、その性格は一癖も二癖もあるものだった……。
まず一番はその言動だろう。色々な意味でぶっ飛んでいる。ただその場のノリと勢いで喋っていると言えば分かっていただけるだろうか。電話越しに初対面の相手に対して、ぶち切れるのは当たり前。気弱な同級生の女の子を『精神的に鍛えるため』にと連れ回す(本人が嫌がっていないのが幸いか)。焼肉では骨付きカルビを生で食す。
何というか、やはり怪は人間の感覚や常識とは異なった世界で生きているのだな、と実感させられる。
また空木(うつろぎと読む)という怪とも邂逅。邂逅と称したのは、普通の人間であればその姿を見ることすら叶わないためだ。どうやら自身の能力によって、誰にも認識されないようにしていたらしい。
そんな空木は、奇妙で残酷な事件を目撃してしまったようである。
そんな第六課の話とは打って変わって、中国から任務を受けてやって来た大人の男と少年の話が挟まっていく。二人は国からの命を受け、何かしらの調査にやって来たらしい。
しかも少年はただの少年ではない。どうやら人によって作られた兵器のようなものであるらしい。人として当たり前に持っている感情や表情といったものが、恐ろしいまでに欠如している。
例えば。
男が『困った表情』をするとする。しかし、少年にはその顔の意味するものが分からない。困るという意味が分からないからだ。
男が人混みに対して『怪訝な表情』をするとする。しかし、少年にはその顔の意味するものが分からない。嫌な思いをしたことがなく、まず前提として嫌な思いができないからだ。
そんな凸凹の二人であるが、祖国のためにと日本での行動を進めていく。時折、優樹達と行く先が被ったりするが、まぁ、きっと偶然だろう。
読み終えた感想としては、『優樹や太一朗の主人公としての活躍が薄い』というものだ。その証拠に、優樹と太一朗は事件が解決してもなお、その事件の真相というものを一切知ることはなかった。相手が優秀か? と聞かれれば、決してそんなことはない。力業でどうにかこうにかねじ伏せているという印象を受ける。
物語の中盤、優樹達は事件の重要な証拠(よく考えると、あまり重要ではない気もする)を空木から受け取ることとなる。しかし、事件に関わろうとはしなかった。自分たちの仕事はあくまで、要請を受けたときに動くこと。事件を捜査し、犯人を捕まえることではない。
この物語のメインは、おそらく中国からやって来た欠陥兵器の方なのだろう。平和な時間を過ごす第六課の面々とは裏腹に、バラバラ死体に破壊に殺戮が入り乱れる彼ら視点の話は読んでいてドキドキさせられる。
予想外の敵と、どんどん増えていく怪の知り合いを楽しむ作品だった。