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葵 ヒカルが地球にいたころ① 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

ミステリアス現代学園ロマンス

情報

作者:野村美月

イラスト:竹岡美穂

ざっくりあらすじ

学園で皇子と呼ばれていたヒカルが死んだ。彼はその後に幽霊となって、是光の前に現れ、「心残りがあるんだ」と告げて付きまとい始める。渋々その心残りを解消するために動き始めるが……。

感想などなど

幽霊には大抵の場合、この世への未練があるものだ。それが他人に対する憎しみであれば、怨念や地縛霊となる。未練を形作る感情が相手を純粋に思う気持ちであれば、それは守護霊になる。

さて、本作では学園でハーレムを築いていた皇子のヒカルが死亡し、この世への未練を残した形で幽霊となった。その未練を形作る感情の正体はズバリ、後半に示した『相手を純粋に思う気持ち』と言って良いだろう。

大金持ちの御曹司であるヒカルには、葵(タイトルにもなっている)という許婚がいた。そんな彼女の誕生日プレゼントを七つ用意して贈る準備をしていたにも関わらず、事故で死んでしまったことで贈ることができなくなった。

それこそが彼の未練であり、是光はそんな彼が用意したプレゼントを贈ることで未練を解消させるために動くことになる。

これで大ざっぱなあらすじというものは理解していただけただろう。しかし、一つ思ったことはないだろうか。「簡単すぎやしないか?」と。なにせプレゼントを渡すだけなのだから。ロボットにだってできる。

 

まぁ、それでは物語としては面白くない。ただプレゼントを渡すという行為に際し、本作では数多くの障害というものが用意されている。

まず一つ。葵はヒカルに対して、拒絶の感情というものを向けているのだ。将来を誓いあったであろう許婚の関係性ではあったが、ヒカルは学園にハーレムというものを作り上げ、「美しい女性がいたら、声をかけない訳にはいかない」という彼のモットーのもと、一夜を共にした女性の数は梅雨知れずである(比喩表現ではなく、数多くの女性と寝ている)。

そんな彼に対して拒絶の感情を露わにするな、という方が無理であろう。ヒカルの葬式で「バカみたい!」「嘘つき」と声を荒げる彼女の叫びは、あまりに悲痛である。そんな彼女に「(浮気ばっかしていた)ヒカルから誕生日プレゼントを預かっているので受け取って下さい!」といった所でそう簡単に話が進むはずもない。

次に二つ。ヒカルが心残りを晴らすお願いをした是光という男が、一癖も二癖もある厄介な輩なのだ。入学式の日にトラックに轢かれたことで入院することになった彼は、友人を作ることもできず学園に入学。中学時代に残した数々の伝説とその目つきの悪さと、『最強のヤンキー』として君臨していたため、退院しても友人ができずにいた。

さらに母親が浮気して離婚を切り出して家を飛び出し、祖母も同様の道を辿っているという脅威の女運の悪さの血を引き継ぎ、彼が女性と関わり――という大層なものではないが、言葉を交わそうとする度に起こるわ起こる地獄絵図。何もしていないのに振るわれる暴力に、何もしていないのに謝られる惨めさ。いつの間にか、是光を応援していたのはブログ主だけではないだろう。幽霊となってしまったヒカルですら、不運体質の彼を応援せずにはいられない。

 

何でそんな是光という男にヒカルはお願いをしてしまったのか。もう少し上手くできる人間もいたのでは? そう思わずにはいられないだろう。

しかし、最後まで読み終えたブログ主は、この願いは真っ直ぐで熱い心を持った是光にしか、ヒカルの心残りは晴らせなかったと断言できる。無類の女好きのヒカルと、運命的に女から嫌われる是光という超凸凹コンビによるミステリアス学園ラブコメの開幕である。

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