※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
プロム
情報
作者:渡 航
イラスト:ぽんかん⑧
ざっくりあらすじ
雪ノ下の母親の妨害を受け、プロムの自粛をするように指導を受けることとなった。そのような状況になっても助けを求めようとしない雪乃。八幡は自分のためにと理由付けして、彼女を助けるために対立姿勢をとることにする。
感想などなど
第十二巻にて、ある程度まで準備が進んでいたプロムの開催を妨害した雪乃の天敵は、保護者達の間で絶大な支持を集める彼女の母親であった。雪乃の天敵……というように書いてはいるが、母親であるという立場(理由としてはそれだけではないだろう)から陽乃さんにとっても天敵であり、保護者であるという立場から平塚先生にとっても天敵と言えるだろう。
彼女が行った妨害はただ一言「危険なのでは? という声が聞かれる」という鶴の一声。どうやらSNS上で少しばかりプロムの過激な写真というものが流されていたらしく、それを目撃した保護者が「危ない!」と判断したらしい。
……なるほど。お気持ちは良く分かります。
SNS恐いですもんね。ネット上にあげられた言葉や画像というものは、消したつもりでも一生残り続けます。匿名という言葉はあくまで、「犯罪行為をしなければ」という前提条件がついていることを理解しておかなければいけません。ネット上に本当の意味での匿名は存在しないのですからね。
だが、このプロムという企画は教師陣や保護者の了承というものを受けている。つまりは審査されているのだ。そこで「問題ない」とされていたにも関わらず、後々になってひっくり返されてしまうことに納得できる人間がいるだろうか。いや、いない。
雪乃はプロムを開催するために更に行動を推し進める。その理由は責任感故なのか。それもないわけではないが、一番の理由は生徒会選挙のときとは違いはっきりと言葉で形にしてくれる。
これまであまり自らのことを語ることのなかった彼女が語る。陽乃さんに指摘された共依存の関係性、「これまであなたに頼りっぱなしだった」という八幡に向けられた彼女の言葉は、あまりに弱々しい。「頼ってはいけない」というように自分に言い聞かせているようにも感じられた。
曖昧だった関係性というものをはっきりさせなければいけない、彼女の意思は固い。
さて、それを受けた八幡は行動を開始する。「手伝わないで」という拒絶に対して、彼は対決するという形式をとることにした。彼・彼女らしく捻くれていて、遠回しで、どうしようもないほどに不器用だ。二人とも求める結果は同じなのに。
対決の内容は「どちらがプロムを開催することができるのか?」というもの。生徒会選挙で妹に救いを求め……いや、行動するための理由を求めたときと同じだ。八幡は理由が欲しかったのだろう。行動するため、雪乃を助けるための理由が。
第十二巻にて、これは前半部分だと説明した。この第十三巻は中盤戦である。行動を開始するための理由を無理矢理生み出し、作戦を立てて実行する。本当の意味で全てに決着がつくのは最終巻の第十四巻である。
プロムを開催するという目的のため、八幡がとった作戦は「当て馬をぶつける」というもの。生徒会の用意した順当なプロムに対して、滅茶苦茶で無理筋なプロムを別で開催するという計画をちらつかせることで、「あれ? 生徒会の方がマシじゃね?」と思わせるということである。
最初に破格に高い金額を提示して、次に一気に下げた金額(それでも相場より高い金額)を提示することで得した気分にさせる詐欺師の手口である。クレーム処理の手順とも呼べる。八幡は将来とても仕事のできる人間になるであろう。
これまでとは違い、誰も傷つかない真っ当な手段。周囲の人に助けを求める彼の行動。奉仕部という関係性の変化と同時に、彼・彼女達の心境や考え方というものも大きな変容を遂げていることが伝わってくる。
歪だったとされてきた関係性が本物に近づくときが近い。