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【漫画】ファイアパンチ1 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

消えぬ炎を宿して

情報

作者:藤本タツキ

試し読み:ファイアパンチ 1

ざっくりあらすじ

氷の魔女によって凍えてしまった世界で食料が尽きかけていた村で、再生能力の祝福を持つ兄妹の二人アグニとルナは、自身の肉体を切って食料として提供していた。そんな村にベヘムドルグという国の兵隊がやって来て……。

感想などなど

生まれながらに奇跡を使える人間を、祝福者と呼んだそうな。

祝福は人を救い導くといったニュアンスがある。旧約聖書においては、神が人々にもたらす救いのようなものを祝福というようなので、この受け取り方は捻くれたものではないはずだ。

しかし、本作に登場する祝福者達はどうしようもなく人々から希望を奪っていく。

そもそもこの世界は雪が降り続く極寒の冬が続き、食料がまともに取れない劣悪な環境である。その原因を作ったのが、『氷の魔女』と呼ばれる祝福者なのだ。あとあとの描写を見るに、『氷の魔女』が誕生するより前は普通の社会だったようだ。

『氷の魔女』がもたらしたこの惨状が、人々に対する救済であるとは、少なくともブログ主は思えない。

さて、そんなその日に食事すらままならない地獄にも、あまりに微かな救済はあるらしかった。地獄の片隅にある小さな村に、再生能力の祝福を持つアグニとルナという兄妹が住んでいた。特にアグニは再生能力が強かったため、自分の腕を切り落として肉として、住民達に食料を救急していたのだ。

人肉であるとはいえ、数少ない肉が毎日手に入るというのは、数少ない祝福なのではないだろうか。

……いや、書いていて無理があると思う。人肉を食べない道を選んで餓死した人もいて、切り落とされた腕の生々しさは想像を上回る。「他の苦痛を全て受け入れてでも、死にだけは抗うのです」と語る村の住民の目は死んでいる。

果たしてこの世界は、そこまでして生きる価値があるのだろうか?

 

この地獄での社会は、祝福者を頂点とし、その他の人間は人権のない奴隷として売買される。気に食わないという理由で殺されるのは当たり前、自らの趣味で尊厳を踏みにじることが当たり前。日常の延長線で犯して殺す。

そんな中、アグニとルナの住む村に奴隷を狩りにベヘムドルクから兵士が派遣されてきた。男は働き手に、女は子供を産み続ける……まぁ、そもそもこの村には老人しかいないのだが。

落胆していたところ、それぞれの家屋から人肉が見つかる。それにより食人の村として、炎の祝福者・ドマに焼き尽くされることが決まった。対象者が死ぬまで消えないという彼の炎は、再生能力の祝福者・アグニとルナも襲う。

村人達は一人残らず焼け死んで、ただ残されたアグニとルナ。焼けた肉体がその瞬間から再生していく。死にはしないが痛みはある。再生能力が兄より劣っていた妹は、少しずつ死へと近づいていく。

アグニの目の前で「生きて」と言葉を残して、ルナは焼け死んだ。その言葉を胸に、ドマへの復讐を糧に、アグニは生きていくこととなる。向かうはベヘムドルク。ここで構築されている社会を見る限り、村の老人達はさっくり死んだ方が救いだったかもしれない。

 

アグニの辿ってきた人生の悲惨さが、この世界においては割とスタンダードだ。家族が一緒に過ごすには狂気に染まるしかない。誰かを思いやるという感情は、早々に捨て去ることが生きるために必要な技術だ。

しかし、そうやって落ちた者達はいずれ報いを受ける。ベヘムドルクへ向かうその道中、邪魔してきた兵士などをボコボコにすることで間接的に多くの人を救うことになる。

そんなアグニを神様と仰ぐムのまで現れる始末だ。彼の行動原理は妹を殺したルナへの復讐のみであり、決して褒められたものではない。いわば完全に人間から堕ちている。もはやただ突き進む舞台装置とでも呼ぶべきかもしれない。

まだ残っている人らしい感情は、ドマへの復讐を終えるとどうなるのか。先が気になる第一巻であった。

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