工大生のメモ帳

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七つの魔剣が支配するⅣ 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

魔に呑まれる

情報

作者:宇野朴人

イラスト:ミユキルリア

試し読み:七つの魔剣が支配する IV

ざっくりあらすじ

キンバリー魔法学校での一年間が、そろそろ経過しようとしていた。授業の苛烈さは増しており、魔法使いとしての厳しい現実に直面していた。そんな中、魔法都市ガラテアで束の間の休息を過ごすオリバー達だったが――。

感想などなど

学生だから命は保証されている。身の危険はないように安全が守られている。そんなものは死なない限り治癒することができる魔法世界において、無駄な手間なのだろう。死んだ学生の葬式が、珍しくない光景であるということが、その環境の苛烈さを物語っている。

オフィーリアは死んだ。魔に呑まれ、落ちるところまで落ちてしまった彼女にとって、その最期は運命づけられたものだったのかもしれない。それでも彼女を救う手立てがあったのではないかと、どうしても考えてしまうのは、彼女の過去があまりに悲しく救いようがないものだったからか。

……とりあえず過去を振り返るのは止めよう。

オリバー達は迷宮の二層、三層へと潜り、キメラとの戦いを生き残り、最後には生還することができた。一年生の内にここまでできることは感嘆すべき事象であり、彼・彼女らはこの一件で大きく成長することができたといえる。

そして残された人権派のカティや、性が入れ替わるピートに、農村の出であるガイは、今回の一件で自分の弱さを痛感した。そんな自分を変えるために、相当な研鑽を積んでいる姿が描かれていく。

カティはミリガンの下で亜人達を治癒する技術を学び、ピートは建築や物体を作り出す技術について図書室に通い学んでいた。ガイは迷宮を生き残る技術に長けたウォーカーについて回り、その技術を盗んでいた。

それぞれが自分の弱みを克服し、より強さを求めている。その探求心は、いずれ魔に呑まれるきっかけを作ることになると思うのだが、そのことを知っているのだろうか。怖くないのだろうか。

そんな心配はきっと野暮だ。

 

さて、オリバー達は何かしらの事件に巻き込まれていくのが常なのだが、この第四巻は日常回という側面が強い。しばしの休息として魔法都市ガラテアに遊びに行き、屋台での買い物や、空飛ぶ絨毯に乗って移動したり、美味しい食事に舌鼓を打つといった学生らしい光景が続いていく。

しかしながら、少し不穏さも間にアクセントとして割り込んでくる。

例えば。

オフィーリアの近くにまで迫っていたオリバーは、その魅了の影響が残っている。つまりは強い性的欲求が、彼を苦しめていた。そんな彼の周囲には、ナナオやカティにミシェーラといった魅力的な女性に囲まれている。

理性で何とか抑え込んではいるが、もしも誰かにキスでもされようものなら、彼の中の欲求が暴発してしまう危険性だってある。その解消には、誰か女性に手解きしてもらうのが手っ取り早い。

まぁ、彼の頼みとなれば助けてくれそうな女性はいくらでもいるように感じる(ミリガン先輩とかどうです?)。しかし彼自身がそういったことで頼る姿は想像できないというのも、ある種、彼の魅力ともいえるかもしれない。

そんな彼の苦しみに気付いた者がいた。名家マクファーレンの長女であるミシェーラであった。彼女は彼のために、一肌脱ぐことになるのだが……ここから先は子供は見てはいけない世界である。

……まぁ、学生の内に卒業しておくことが普通の世界観だし。オフィーリアはもっと激しいことをしていたみたいだし、これくらいは普通普通……。

 

この第四巻ではオリバーとミシェーラ、オリバーとナナオ、オリバーとカティといった恋愛関係にも焦点が当てられていた。ナナオがオリバーと斬り合いたいと望み、ミシェーラはオリバーのことを自分と似た魔法使いというように感じている。オリバーはカティのことを眩しいと言い、この第四巻においてはっきりと「君がいなくなると寂しい」と口にした。

オリバーは復讐のためにキンバリーに通っている。その裏の顔を彼女らが知った時、一体どのような行動を取るのか。知りたいと思ってしまっているブログ主は、とてつもなく性格が悪いのだろう。

そんな綺麗でいびつな関係は永遠に続かないと思う。その歪みを楽しむべきではないだろうか。一緒に魔に呑まれて見るのも一興であろう。

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