※ネタバレをしないように書いています。
強い悪い人でありたい
情報
作者:佐藤真登
イラスト:ニリツ
試し読み:処刑少女の生きる道 4 ―赤い悪夢―
ざっくりあらすじ
アカリとモモはメノウが死ぬ運命を変えるため、二人で逃げ出した。信頼していた後輩に裏切られたメノウは、二人を追いかけるが――。
感想などなど
【器】の力を分け与えられ、何者かになりたかったサハラはメノウと相対し敗れた。その結果、サハラは聖典に取り込まれ、生命ではない別の何かへと成り下がった。 ”取り込まれ” という表現は恐らく正しくない。聖典を構成する魔導の一部になったとでも言った方が良いだろうか。
こうしてメノウが抱える問題に、聖典のサハラが加わった。目下、最優先すべきアカリの殺害である。メノウが砂漠で死闘を繰り広げている中、その殺害対象であるアカリは信頼している後輩・モモに預けていた。
しかし、そのモモがメノウを裏切ってアカリとの逃走劇に繰り出したというのだから驚きだ。モモのメノウの溺愛ぶりは読者なら知らないはずがない。第一巻でメノウに貰った赤いリボンが焼かれた程度で(……こう言うとモモにバラバラにされそうだが)、血管が切れんばかりにキレていた姿が思い出される。
そんなモモがメノウを裏切るとは考えにくい。しかしながらメノウには裏切られる心当たりがあった。第一巻でアカリと行動を共にする話を、メノウがモモにした時、モモは『迷い人に対して情が湧く可能性』を指摘していた。結果としてメノウは迷い人であるアカリに対して、かなり甘くなってる。
このまま塩の剣がある場所までアカリを連れていき、メノウにアカリを殺せるか? 甚だ疑問だ。だからこそ、モモ自身がアカリを殺す……優しい先輩のことを想うからこその行動だと考えると、モモの裏切りの理由もある程度は納得できる。
しかしアカリを殺すのは自分の仕事だ。メノウは二人の追跡を開始する――冒頭の流れとしてはこんな感じか。
メノウの推測は当たっているようで当たっていない。
実際は『アカリを殺すこと』が目的ではなく、『メノウを死なせない』ことが目的で『アカリを殺そう』としているのだ。これまでアカリが繰り返したループでは、アカリを庇って裏切った果てに伝説の処刑人・陽炎によって殺された。たとえアカリとメノウが一緒に行動しなくとも、また別の理由で殺される。
どんなに時を繰り返しても、アカリはメノウを救えない――しかも繰り返した影響で、【魔】の小指部分が外に漏れ出てしまった。これによりメノウは殺されかけ、これ以上時を繰り返した際の影響がどのようになるかも分からないという ”ループすればやり直せる” という安心も失われた。
わりと詰みな状況な訳だが、これまでのループとは違い今回はモモの協力を取り付けることに成功した(しようとしなかった?)アカリは、モモと共に万物を塩に変える塩の剣の元へと急ぐ。
ついでに戦闘経験の乏しいアカリの特訓も行われる。ただでさえ【時】という超強力な力を持っているのだ。死んでも時間を巻き戻す回帰に、タイムリープを繰り返すことができ、時を止めることだってできる。これまで力を使うたびに記憶が消費されるという制約があったことや、そもそもメノウが守ってくれるので戦闘する必要がなかったということもあり、力の使い方がどうにも完璧ではなかったようだ。
そんなアカリが力を使いこなした際のヤバさが、この第四巻では垣間見える。
ここまで読んでおいて何だが、アカリがメノウに固執する理由が、自分は理解できていなかった。現世であまり良い記憶がないことは彼女自身が語っている。だからといって、メノウのために殺されたいとまでなった経緯が、すっぽり空いているように感じていた。
メノウは確かに魅力的な優しい人だ。優しすぎるからこそ、メノウのために陽炎とも戦い死んだ過去のループがあるのだろう……というように理屈では理解できても、アカリの目を通して見る世界は歪んで見えた。メノウがいない世界は滅んでも良いとまで言ってのけた狂気を、幾度となく見せつけられてきたからだ。
しかし、四大人災の真実や過去が明かされたことで、アカリが絶望に打ちひしがれた時のメノウの行動でようやく理解できた。メノウはこういう子だからこそ、アカリは強く彼女に惹かれ、いくつものループを繰り返すことができたのか、と。
これから先はアカリとメノウそれぞれの戦いではなく、アカリとメノウ二人による戦いになる。次巻への期待が高まる展開であった。