工大生のメモ帳

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【映画】青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない 感想

※ネタバレをしないように書いています。

情報

作者:鴨志田一

イラスト:溝口ケージ

アニメHP:「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」 | 青春ブタ野郎シリーズ

原作1:青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない 感想 - 工大生のメモ帳

原作2:青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない 感想 - 工大生のメモ帳

ざっくりあらすじ

 クリスマスまで一ヶ月を切ったある日。初恋相手の翔子さんと、現在お付き合いしている麻衣先輩と、青春ブタ野郎こと咲太の三人でコタツを囲っていた。やむなく翔子さんと同居していたことが、麻衣先輩にばれたのだ。

そんな修羅場の最中、小さい翔子ちゃんの病気が悪化していることを耳にする。

まず最初に

まず最初に言っておきたいのだが、この劇場版は最低限アニメ全十三話は見ておかないと意味が分からない。もしもアニメを見ていないまま本作を見ようとしているならば、回れ右してアニメを見てくることを進言しておく。

また記事主は原作を最新刊まで読破済みであり、アニメも見た上で劇場版を視聴した。なので劇場版のストーリー内容を知った上で劇場版を見た人間の感想であることを留意して貰いたい。

しかし、ネタバレは徹底的にしないようにして感想を書くようにしている。これから劇場版を見ようという方も、安心してこのまま読み進めて欲しい。

……注意事項はこれくらいにしてさっさと感想に入ろう。

感想

結論から言ってしまえば『最高』だった。パンフレット完売も納得である(記事主は買えなくて悔し涙を流した)。

今回の劇場版では「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」と「青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない」の二巻分の内容が描かれている。アニメであれば六話ほどを割いているだろうボリュームだ。そのストーリーを破綻なく、重要な伏線や説明も大きく外すことなく尺内に収めている。脚本の手腕に敬礼。

それでいて青春ブタ野郎シリーズの魅力であるキャラ同士の独特な会話も顕在である。咲太は劇場版でもしっかりと、踏まれれば喜ぶし、空気を読まないセクハラ発言も止まらないブタ野郎だったので安心して欲しい。

それでも原作を読んだものからすれば、駆け足感は否めない。それなりのシーンが省かれているはずだ。しかし、原作を知らない者からしてみればまず気にならないだろう。少しややこしい状況説明は、しっかりと分かりやすく説明されており、情報は分かりやすく提示されている。「原作を読んだから」という訳ではなく、「原作を読んでいなくても」劇場版だけで状況の理解はできるようになっていたはずだ。

 

そんな劇場版の構成の話はさておき。ストーリーの話題に移ろう。

時間軸としては妹関連が一段落して、クリスマスがもう少しという時期。咲太の初恋の相手である翔子さん(大人バージョン)が現れ、住む場所がないという彼女と半同居していることが、愛しい彼女である麻衣先輩にバレるという修羅場が物語の始まりとなる(正確には翔子ちゃん(子供バージョン)と猫を引き取ろうとする話が冒頭にある)。

マイペースに「咲太君になら何をされてもいい」とか「麻衣さんが満足させてるなら問題ないですよね」などと言い放つ翔子さんと、ブタ野郎をしつける王女様こと麻衣先輩による厳しい視線……見ているこちら側からしてみれば、何とも楽しい修羅場である。

……ということで。

今回、咲太が巻き込まれていく青春症候群は『大人の翔子さんと、子供の翔子ちゃんが同時に存在している』というものである。雰囲気としては「青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない」の『里央のドッペルゲンガー』と似たようなものだろうか。

これまでの青春症候群は、対象者が抱える心の問題が普通では考えられないような現象として顕在している。例えば「青春ブタ野郎はバニーガール先輩に夢を見ない」では、誰からも見られたくないといったような麻衣先輩の悩みが形となって、麻衣先輩は誰からも見えなくなった……といったように。

今回も例外ではないはずだ。では、 ”誰が” ”どのような悩み” を抱えて、今回の青春症候群は引き起こされたのだろうか。

そんな疑問は至って簡単に解き明かされる。ネタバレでも何でもないので、ここで説明しておこう。

今回の青春症候群を引き起こしたのは幼い少女である翔子ちゃんだ。そんな彼女が抱えている悩みは『心臓病によって、大人になることができない』といったことである。どうやら翔子ちゃんは心臓に深刻な病を抱え、心臓移植をしなければ治すことはできないとされていたのだ。

彼女が抱える心の悩みは、相当なものだろう。まだしたいこともたくさんあるはずの少女は、それを叶えることができないのだ。そんな彼女は自分の中に『大人になりたくない自分(つまりは死にたくない自分)』を生みだし、そのもう一人の自分が時間を先取りして大人となって咲太達の前に現れた……それが今回の青春症候群の正体である。よく分からなければ、未来の翔子さんがやって来たという理解で問題はないだろう。

ここで考えないといけないのは『彼女の悩みの解決方法』である。しかし、今回の悩みは解決のしようがない。翔子ちゃんの病気が治ればいいのだが、咲太は医者ではないのだ。というか医者ですら投げ出している。

そんな翔子ちゃんに対して自分にできることをしようと、ドナーカードに名前を書いて持ち歩いたり、毎日のようにお見舞いに来る咲太。

このまま何もできないのか。そんな諦めのような空気が漂う。

いや、彼の諦めの悪さは、これまでの物語を見てきた人ならば知っているだろう。妹を救えず悔し涙を流した彼の姿を知っているだろう。今回もそんな彼の諦めの悪さと、誰かのために全力で自分のできることをしようと努力してくれる。

そんな彼のためにと、一緒に泣いてくれる者、一緒に知恵を働かせてくれる者……などなど友人達も協力してくれる。

結果として見つかる可能性。それは『人の命を救うことの大きさ』と『全員が幸せになることはできない』という残酷な現実を突きつける。その可能性とは何なのか……は是非とも劇場で確認して欲しい。

そんな彼が大切な全てを守るための戦いは二巻という長さにまで及び、これまでの戦いは全て無駄ではなかったと胸を張って言えるようなエンディングが待ち受けている。

 

アニメを見て面白かったという人はまず間違いなく見るべき作品である。今回で翔子さんに関する伏線や疑問は全て解決される。シリーズは続いているが、今回で一段落付いたというところだろう。

劇場版になると聞いた時は正直不安だった。なにせ二巻分の内容、さらに少しばかり時間軸がややこしくなってしまう設定、アニメの決められた尺で描ききるのは難しいと思っていた。

そんな不安は軽々と払拭し、期待以上の作品ができあがっていた。良いアニメ映画でした。