※ネタバレをしないように書いています。
私、覚悟ができると思うの。
情報
作者:橋本紡
イラスト:山本ケイジ
ざっくりあらすじ
入院した先の病院で、由香という同級生に出会った。彼女はまるで王女のように、それはそれはわがままだった。
感想などなど
不治の病を題材にした作品は数多く存在する。自分がパッと思いつくのは最近読んだのだと『君は月夜に光り輝く』だろうか。ドラマしかり映画しかり、悪く言ってしまえば、数々の作品で使い古されたテーマである。
今回読んだ『半分の月がのぼる空』それらの代表的な作品であるらしい。
自分も名前だけは幾度となく聞いたことあるので、知っている人はかなり多いのではないだろうか。友人の中には「学校にあった」と言う人もいて、ライトノベルであるということを知らない人もいるくらいだ。
これは読まねばなるまい。そんな誰もが知る名作の感想を書き進めていこう。
この作品は冒頭から引き込まれていく。本当は全文ここに載せたいくらいの文章なので、一度くらい本を買って読んで頂きたい。
この作品は全て、この冒頭に集約されるように思う。
全てを書き記すことはできないが、好きな文章を紹介しようと思う。
『そう、なんでもない、ごく普通の話だ。
もちろん僕達にとって、それは特別なことだったけれど。』
ここだけでは何も分かって貰えないかも知れない。しかし、読み終えて考えてみると、色々と感慨深いものがある。これから読もうと思っている人は冒頭を覚えておいたらより楽しめるかもしれない。
この作品を読んで最初に思ったのは、死が想定していたよりもあっさりと描かれているということだった。一巻では死にそうにない人が中盤くらいで死ぬ。あまりにあっさり過ぎて、「えっ」と思ってしまうほどである。
しかし、よく考えてみれば、病院ではそれが日常なのだ。
そんな死を日常的に感じる病院で主人公と里香は出会う。主人公は病気であるが平静にしておけば治る病気であって、里香はどうやら死ぬらしい。
なんせ自分から笑って「あたし、たぶん死ぬの」と言っているのだ。死という言葉が度々登場し、読んでいる自分たちは「死」が意識づけられていく。
もう先が短いことが、あらゆる描写を駆使して描かれ、あまりに辛い現実が突きつけられる。こんな感じで、ずっと死ぬことばかりが描かれていくのだ。
そんな彼女が度々、遠くの山(砲台山)を眺める。
理由は「昔父親が死ぬ前に連れて行ってくれた山だから、あそこに行けば死ぬ覚悟ができそう」ということらしい。
全てにおいて死に溢れている。彼女の心には、死ぬことしかないのだ。
平静にしておけば、すぐに退院できるはずの主人公は、そんな彼女と過ごし、色々なことを考える。自分にできることはないだろうか。しかし主人公は医者ではないのだし、彼女の病気を治すことはできない。
里香のことをうるさいとか、わがままと言いながら、彼女に付き添い話を聞く。そんな目の前の女の子が、実は明るく振る舞いながらも死ぬことばかり考えていると知った時、彼は何を思うのだろうか。
単純に考えれば、彼女の願望を叶えたいといったところだろうか。
しかし彼女の願望である「砲台山に行きたい」を叶えると、彼女の中の死ぬ覚悟が固まってしまう。果たして、それでいいのだろうか。
死との向き合い方を色々と考えさせられる作品だった。