※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
守れると思ってた。
情報
作者:橋本紡
イラスト:山本ケイジ
ざっくりあらすじ
「おまえにとっちゃ最悪の結末だ」
夏目はそう告げる。そして、
「おまえはもう里香に近づくな」
言葉の真意とは。
感想などなど
里香の手術が終わり、「おまえにとっちゃ最悪の結末だ」と意味深なことを告げて来た夏目。江崎も読者も、自分も含めて、脳裏に浮かんだのは ”死” の一文字でしょう。四巻を読むまで、自分の心境はずっと穏やかではありませんでした。
「まさか、こんな所で終わるのか?」「誰も救われないのか?」
自分の場合、九巻まで続いているという予備知識があったので、何となく安心感がありました。しかし、当時リアルタイムで追っかけていた人からしてみれば、「もしかしたら、このまま死亡して終わりもあるかも……」と作品の終幕を想像してしまう人も、少なからずいたと思います。
そのような複雑な思いを抱えながら迎えた第四巻。冒頭から「手術は大成功だった」ということが告げられますが、それでもやはり「最悪な結末」という言葉が脳裏をよぎり、ページをめくる手は重くなります。
それでも読み進め、自分が感想を書くことができています。
さて、今回は謎の多い男・夏目の過去が明かされていきます。
片田舎に移された。
何かをやらかした。
など断片的な情報は、第三者から語られる形で入ってきますが、彼本人の口から語られる答え合わせ的な意味合いが大きい物語となっています。まぁ、その背景では江崎がしっちゃかめっちゃかに場を荒らしていますが、それは感想の後半で。
夏目の物語は高校生活まで遡る。全ての始まりは猫力の高い女子高生・小夜子との出会いであり、彼の語る物語は彼女との生活の全てでした。
医者になるために努力して東京に飛び出した夏目と、そんな彼に付いて行く小夜子との恋愛物語はそれ単体でも面白く、甘酸っぱいものがありました。
そんな恋愛小説もたった少しの綻びで、絶望へとたたき付けられます。
心臓病。小夜子の死期が近いことが判明します。そんな物語の結末は、彼女の死で閉ざされ、残された彼の物語が今へと至ります。
つまり彼は、過去に一度、大切な人を守れず失ったのです。
そんな物語を夏目は亜希子さんに語ります。その背景では江崎が酒を飲み、「里香には会うな」という夏目に言われた言葉が脳裏をよぎります。
きつい……もう、作品内ではつらい雰囲気が漂います。心の救いでもあった里香との会話もなくなって、打ちひしがれていく登場人物達の心情が綴られていくのです。
さて、ここで考えなければいけないことは二つ。
「なぜ夏目は「里香には会うな」と言ったのか?」
「このまま里香に会わなければどうなっていくのか?」
まさか意地悪で、夏目はそんなことを言わないでしょう。里香にとっても江崎は心の支えになっていたことは知っていたはずです。里香が望んだ……ということも、まさかないでしょう。本を貸してそのままというのは、あまりに残酷です。
では、もしこのまま二人が会わなければどうなるのか?
……きっとどうにもなりません。江崎にとって、里香は過去の思い出となり、大人になって結婚して、普通の生活を送る、普通の大人になるでしょう。何せ、江崎は死が確定していないのですから。
……そんな平凡な結末を読者は望みますか? いえ、言い方が悪かったですね。
主人公が認めるでしょうか?