※ネタバレをしないように書いています。
ラスボス飼ってみた
情報
作者:永瀬さらさ
イラスト:紫真依
ざっくりあらすじ
魔王クロードが、アイリーンとのことや魔王としての記憶を失ってしまい、アイリーンとの婚約も破棄されてしまうことに。このままでは不味いと、「会えば打ち首」と釘を刺されていることを無視してクロードの元に通い詰めるアイリーンだったが――。
感想などなど
ミルチェッタ学園にでの魔香騒ぎは、本来の主人公であるセレスをリリアが操ることで、泥沼化させられた事件だった。アイリーンはあまりプレイしていないFDの情報を駆使したリリアに軍配が上がるかと思いきや、最後の最後に勝ったのはアイリーンであった。
そんな第二巻では、リリアがアイリーンと同じく元プレイヤーであるという情報だけでなく、彼女の目的が明かされた。それは彼女にとって何もかもがゲームと同じように展開されるこの世界に飽き飽きして、唯一ゲームとは違うイレギュラーな行動を取ってくれるアイリーンを追い詰めて遊ぶため。
アイリーンはこの世界をゲームではなく、もう一つの世界と考えている。一方のリリアは、現実ではなく所詮ゲームと割り切って周囲と接していた。要は婚約者であるセドリックも人間とは思っておらず、ゲームの攻略対象として捉えていたのだ。ゲームと同じことを言えば、ゲームと同じ反応を返す彼らに対して、そういった感情を抱くのは仕方ないのかもしれない。
そんな彼女と正面切って争うことになった矢先、クロードの記憶喪失事件が起きる。これはFDであった内容で、ゲーム本編で死んだと思われていたはずのクロードが実は生きていて、本来はヒロインであるリリアと一緒に過ごしている内に記憶を取り戻していく……という内容らしい。
ゲームの内容に沿うならば、リリアとクロードが一緒に過ごしている内に記憶を取り戻すことになる。しかしリリアは敵である。どこまで彼女が知っているのか定かではないが――とにかく彼女はこの状況に乗じて、記憶を失ったクロードと時間を共にしていく。
このまま記憶を取り戻さないままであれば、魔王としてではなく人間として生きていくことができる状況を、これまた好機と考えて、皇帝はクロードとアイリーンが会うことを禁じた。その本気度は、「会えばアイリーンは打ち首」と言い渡されたことからも伺える。
ただ、アイリーンはそれを歯噛みして見ているような乙女ではない。
打ち首? まぁ、お忍びで会いに行くんですけどね。という訳で忍び込んでの逢い引きが始まる。記憶を失って、アイリーンにベタ惚れじゃないクロード様は新鮮である。そんなクロード様にベタベタ触れて痴女と揶揄されたアイリーン。是非ともベタ惚れクロードに、今のアイリーン様を見せてあげたい。
この辺りを読んでいると、アイリーンを泣かせたいと宣ったクロードの気持ちが分かるようになってしまう。普段は強気な乙女が、ほろりと見せる弱気な姿に恋した男もいるのではなかろうか。
第二巻でアイリーンが手に入れたのは、リリアがアイリーンと同じ状況であるという情報だけではない。オーギュストやゼームスといった生徒会メンバーが、クロードの傘下に加わったのだ。
彼らはアイリーンに言われるがまま、クロードの下に着いたといえるかもしれない。しかしながら彼らは彼らの役割を、第三巻ではしっかりとまっとうしてくれる。クロードの元に通い詰めるアイリーンだけが、本作における主役ではないのだ。
そもそもクロードは魔王というだけあって、その魔力量や魔法の技術はかなりの水準に達している。そんな彼の記憶を消し去ることができる者などいるのだろうか? 誰か黒幕がいるはずという発想は、凄く自然である。
おそらく全てを把握しているだろうリリアの妖艶な微笑みと、セドリックもクロードも攻略対象としか見ていない彼女の策略。彼女は誰もが駒であると表現した。彼女の思い通りにいかないことはない。
ただ現実を見よ。第二巻の舞台となったミッチェル学園において、彼女の思惑通りにことは運んだだろうか。アイリーンの活躍が大きいとはいえ、物語は急展開している。
今回もアイリーンのみならず、駒だと揶揄された者達の行動にも着目してあげて欲しい。彼らは決して駒ではない。感情を持った人間なのである。