※ネタバレをしないように書いています。
スライム研究に明け暮れて
情報
作者:Roy
イラスト:りりんら
試し読み:神達に拾われた男 10
ざっくりあらすじ
労働者の流入で混乱する街を守るため、仕事の提供や警備会社の設立など積極的に動く竜馬。しかし、バンブーフォレストの従業員の中にスパイがいるということが判明し……。
感想などなど
第十巻で竜馬が始めたことを列挙していくと、とても大変なことになる。第十巻を読んでからそれほど時間はたっていないのだが、一冊を通じて進捗した事象が多すぎる。それはスライムの研究成果であったり、ゴブリンを飼い始めたことによる成果であったり、スラムに工場や居住地を作った成果であったりと多岐に渡る。
そのように竜馬が仕事をこなしていく様は、シミュレーションゲームで次々に実績が解除されていく様子を見ているようだ。仲間が増え、できることが増えると、生活がより便利になっていく。となると大変になっていく維持費が、工場という大規模施設の開発により解消……このゲーム終盤感がたまらない。
この第十一巻では、街に労働者を大量に送り込んだ黒幕達が、一気に瓦解していくような内容となっている。決して竜馬が直接手を下したとかそういうことはなく、これまで地道に積み重ねていた実績が、敵に一気に降りかかっていく勧善懲悪な展開というところが面白い。
例えば。
そもそも竜馬はジャミール侯爵家の当主を助けたことで、森の中でひっそりと過ごすだけだった彼の生活が一変した。スライムの研究成果を駆使した清掃や、洗濯事業の開拓に始まり、前世で十分すぎるくらいに培われた戦闘能力が、多くの人を助けてきた。
表に出てこずとも彼に救われた人は多くいる。その積み重ねが、一連の事業を成功に導いていることは言うまでもない。工場を建てるにしても、その許可を取り付けるにしても、すべて竜馬が中心にいて成立している。
作中にて、敵視点で描かれている内容もあるのだが、それを見ると竜馬のやったことが効率的に計画を潰していることが良く分かる。
この第十一巻で竜馬がしたことは、第十巻同様にたくさんある。
だがまぁ、一つを上げるとすればニトログリセリン(のような奴)の発明だろう。かつてノーベルが炭鉱仕事などを楽にする目的で作り出したが、戦争で使われることになってしまったアレだ。そっちは熱や衝撃に反応して爆発する物質だが、スライムの研究課程で作り出した ”火薬のようなもの” は少々その性質が異なる。
どうやらそれは『光を吸収して熱を発する』性質を持っており、光を当て続けることで爆発するらしい。竜馬は実験中、たまたまその物質を作り出してしまった。おそらく竜馬以外は作ろうとすらしない物質だろうが、安価で大量に作れるというのは、あまりに厄介であろう。
しかし、その性質を利用すれば「除雪作業を楽に進められるのでは?」とも考える竜馬。雪になじみのないブログ主からしてみれば、その発想はなかったといった感じだ。ニトログリセリンが狭心症の治療薬に使われるように、この物質も多くの人を救ってくれれば幸いだ。
他にもスライムと感覚共有することによる効果や、ウィードスライムを使った薬草の生産、化粧落としなど列挙していけばキリがない。正直、覚えていない。覚えさせる気はない。
ただそういった発見が後々になって繋がったりするのが難しいところだ。アイアンスライムとか、ワイヤースライムが装備になっていたり、「あぁ、そんなスライムいたなぁ……」と記憶を手繰り寄せる一手間がかなり多い。
このシリーズを本当の意味で楽しむならば、定期的な予習復習が必要なのかもしれない。
そんな中、バンブーフォレストに最近になって入って来た警備担当・ユーダムという男がスパイではないかという話が出てくる。「誰?」となった方も多いことだろう。作中の人物たちが、「あぁ、あの人ね」といった感じで話を進めていく。まぁ、そこらへんは分からずとも全く問題はない。
問題は、このユーダムはどこの誰が送り込んだスパイか?
街を救うために数々の功績をあげているが、その話は戸に壁を建てたとしても広がっていくだろう。いずれこのような動きが起こることは容易に想像できた。その突如として持ち上がった問題を、竜馬らしい手法で解決していく。
前世含めた年の功が、彼特有の人との付き合い方・考え方だからこそできる物語となっていた。