※ネタバレをしないように書いています。
スライム研究に明け暮れて
情報
作者:Roy
イラスト:りりんら
試し読み:神達に拾われた男 1
ざっくりあらすじ
ブラック企業に勤めていた中年サラリーマン・竹林竜馬の生涯は、睡眠中のくしゃみで頭を打って死ぬという形で幕を閉じた。そんな彼は三柱の神に協力を求められる形で、手厚い加護をもらい受けつつ、異世界へと子供の姿で転生した。ひとまず森に籠もりつつ、スライムの研究に明け暮れることに。
感想などなど
異世界に転生するためには一度死ななければいけない。当たり前だ。そうして現世との未練を断ち切って、ようやく異世界でのスローライフというのが謳歌できるというものだろう。
本作の主人公である竹林竜馬というのもまた、そんな数々の転生者の一人にして、スローライフを謳歌する者だ。ただ彼に個性を見出すとすれば、現世の姿でも恐ろしく強いということと、かなりの運の悪さを兼ね備えていたということだろうか。
まず彼の死に様を見て欲しい。
夜、疲れて眠っていると、唐突に始まるくしゃみ三連。そしてズレる枕。そのまま床に頭を打って死去。死因は病死か、はたまた事故死か。一応、公式のあらすじには病死と書かれていたり、くしゃみと書かれていたりする。おそらく公式もこの死因の表現に困っているのだろう。
その死に至るまでの彼の人生というのもかなり劣悪と言わざるを得ない。ブラック企業と検索して、その検索結果をまとめたような人生である。正直いつ死んでもおかしくなかったと思う。
その過酷な環境を乗り越えて異世界に転生する至った彼のステータスの中で、耐久値だけが異様に高かったのも頷ける。また、単純作業に楽しさを見出したり、一徹、二徹程度ならば楽々とこなすようになってしまった辺り、彼の社畜精神が死んでも直らないことを示している。もう魂レベルで染みついてしまったんだと考えると、何だか悲しい。
さて、そんな彼も異世界でスローライフというものを手に入れる。とはいっても多くの人が想像するスローライフとはかなり形が違うだとうことを念頭に置いて欲しい。
まず環境が何もない、危険な魔獣ばかり住む森である。ある程度、転生した際に色々と同情だったり――これ以上はネタバレになるので避けるが――をしてくれたお陰で様々な力を手に入れることができた。とはいっても一定の生活ができるようになるまでは、ある程度の期間を要したようだ。
また、力を手に入れたとは言っても、「その世界の子供にしては強い」程度のステータスであって……あぁ、ただ耐久だけはおかしかったか……得に目立ったチートというものは貰っていない。
ただ彼には現世での知識というものがあった。やはり異世界に行くに当たっては、ある程度ラノベを読んで自己研鑽に励んでおくべきだろうか。
例えば。
この世界にはスライムという生物がいる。世間的には雑魚と言われる彼らであるが、従属させて飼育させ、餌を与えていくと分裂して数を増やしていく。その与える餌を変えていくと、分裂する際に一定確立で進化して特殊能力を持ったスライムが産まれてくる。
そのスライムをさらに分裂させ、餌を工夫すると更に進化したスライムが一定確立で産まれ……というようにゲーム感覚で最強のスライムを育成することが可能なのだ。社畜精神とオタクの心が組み合わさった中年サラリーマンは、このスライムの育成にどっぷりと嵌まってしまう。
彼が人と出会うまでの三年間で、スライム数は千を超え、これまで存在しなかった新種まで生み出してしまう始末。いやはや、凝り性というものは止める者が居なければどこまでもいってしまうという好例である。
このスライム達を使って、彼は降りた人里でそれなりの地位と金と、色々を手に入れていく。そしていつしか社畜になっている気がするが気にしてはいけない。これはスローライフだ……うん、きっとそうだ。
子供なのに目が死んでるとか、馬鹿に丁寧とか、徹夜しなくていいんだよとか言われるけれど、彼は今日も元気にスローライフを送っていく。