※ネタバレをしないように書いています。
終わりから始まる物語
情報
原作:山田鐘人
作画:アベツカサ
試し読み:葬送のフリーレン (2)
ざっくりあらすじ
魔王を倒した勇者パーティの一人、魔法使いのエルフ・フリーレン。死んでしまったヒンメルと再び言葉を介すために、かつて十年かけた旅路を辿っていく。
感想などなど
魂の眠る地を探して、勇者達御一行が十年かけた旅路をフェルンとフリーレンの二人で辿っていくこととなった。目的はヒンメルに直接伝えたい言葉があるから。話したいことがあるから。
目的地は魔王城の近く、大陸の最北端。そこに向かう道中は、人を喰らう魔族が蔓延っているだけでなく、空を飛び交う竜の群生地であったり、寒く険しい自然環境が立ち塞がったりと、決して楽な道のりではない。
ヒンメル達一行は十年かかったその道中。フリーレンにとっては、人生の百分の一にも満たないあっという間の時間のようだが、彼女は大きく変わった。意味がないと言っていた人間の弟子を取るくらいには。ヒンメルのことを知りたいと言わせるくらいには。
第二巻、まだまだ冒険は始まったばかりであるが、様々な困難が二人を待ち受ける。
……とはいっても避けようと思えばいくらでも避けられる困難だ。道は迂回すれば良い。村人の依頼なんて、時間効率のことを考えれば無視すべきなのだろう。昔のフリーレンならばきっとそうした。
たった十年の冒険で変わったフリーレンは、道中で村人を困らせている魔物がいれば倒し、魔導書を見かければ竜が相手だろうと奪取する。自ら困難を増やし、大した報酬も貰えない旅となっていく。
しかしそれが楽しい。
フリーレンは良い師匠だとアイゼンは言った。正しくそうなのだろう。
フリーレンとフェルンの二人旅だったが、新たに前衛がパーティメンバーに加わった。彼の名はシュタルク。アイゼンの弟子だ。
アイゼンは彼に全ての技術をたたき込んだという風に語っていた。そして誰かのために戦うことができる戦士だと、彼のことをべた褒めしていた。それはそれは素晴らしい戦士なのだろう……といった期待を胸に抱いていると、ファーストコンタクトで失望してしまうかもしれない。
彼は竜の巣が近くにある村で三年間も生活していた。彼が村に来たとき、ちょうど竜の襲撃を受けていたところで、彼は竜の前に立ち塞がり村を守ったのだ。なんと素晴らしき英雄譚か。
そんな彼にフリーレンはお願いをした。一緒に竜を倒して、パーティの前衛としてついてきてくれないか、と。それに対するシュタルクの返答は、なんと「魔物と戦ったことなんて一度もない」とフリーレンに泣きついて、村の近くに巣を作っている竜と戦いたくないと言い出したのだ。
アイゼンの話していた内容とは大きく異なる態度、とても強者とは思えない臆病ぶり。しかしフリーレンは特別失望した様子もなく、彼に考える時間を与えた。半信半疑……いや、一信九疑くらいのフェルン。
しかし彼女も初めて魔物と戦う時があった。その時も、最初は逃げ惑うことしかできなかったというのだから、誰だってそういう時がある。必要なのはほんの少しの覚悟だけ。
そのことを理解し、覚悟を決めたシュタルクの強さをとくとご覧あれ。
もう生きている頃のヒンメルは、フリーレンの回想でしか拝むことのできない読者であるが、どの回想でも共通して「自分たちが死んだ後のフリーレン」のことを気にしているようだった。
各地で魔物を討伐し、そのたびに自分の銅像を造らせていた。ナルシストという側面も大いにあるのだろうが、彼は「君(=フリーレン)が一人ぼっちにならないようにするためかな。」と銅像を作って貰っている理由を語った。
フリーレンはこれからの道中、幾度となくヒンメルの銅像を見かけることになるだろう。そしてそのたびに彼との戦いを思い出し、村人もまた勇者達一行のことを忘れない。
もう魔王討伐されたのは何十年も前の物語、人々の記憶が薄れ、忘れ去られてもおかしくない時間だ。ただ銅像だけは残り続け、誰かは語り継いでくれるのではないだろうか。
ヒンメルという男の優しさが、この物語の根底にあり続けている……そう思えてならない。
旅の目的は決まったが、この旅は同時に、やり遂げられなかった心残りを解消していくものにもなっている。魔族という人を喰らうために言葉を操る猛獣との戦いは、魔王を倒したからといって終わりではない。
魔族の残党が、北側諸国ではまだまだ幅を利かせている。この第二巻では魔王の直属である七崩賢の一人・断頭台のアウラとの戦闘が、後半から描かれていく。この戦いでフリーレンというエルフが積み上げてきた技術の神髄を拝むことができる。
静かに盛り上がっていく第二巻であった。