工大生のメモ帳

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陰の実力者になりたくて!02 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

妄想を実現させるだけの力を

情報

作者:東西

イラスト:逢沢大介

試し読み:陰の実力者になりたくて! 02

ざっくりあらすじ

実力者だけが参加する『女神の試練』に、参戦させられることとなってしまったシド。陰の実力者としての美学に則り、何とかして目立たず、しかし『シャドーガーデン』は活躍させる際善策を思いつく。しかしそれにより、『災厄の魔女・アウロラ』が現れ――。

感想などなど

『シャドーガーデン』の活躍は、世間で評価されずとも確かに世界を救っている。そして自分たちの利益だけを追求し、魔人の復活を狙う『ディアボロス教団』にとっては大きな障害となりつつあった。

ディアボロスを復活させるために、『英雄の血』を手に入れるために暗躍した組織がいた。その血を持っているアレクシア王女を捕らえ、その罪をシド(裏では『シャドーガーデン』のボス)に被せようとしたが返り討ちにして計画を阻止。

まだ『シャドーガーデン』を舐めてかかっていた頃は、学園襲撃の汚名を全て『シャドーガーデン』に被せつつ、アーティファクト『強欲の壺』を奪おう自分のものにしようとする輩がいたが返り討ちにして阻止。

シドの表には出てこない獅子奮迅の活躍は目を見張るものがある。彼の前世から含めて鍛え続けた実力は遺憾なく発揮され、作中最強の戦闘力に、優秀な部下達を引き連れての作戦遂行能力の高さはかなりのものだ。

ただこれらを全て妄想かつ遊びだと思っている辺り、シドという男の異常性が良く分かる。魔人復活を阻止するために、200人近い『シャドーガーデン』の配下が動いていると聞いても、「エキストラかな?」で納得している辺り。

まぁ、それも仕方がないのかもしれない。彼からしてみれば、何か暗躍する輩がいても、全て自分の部下達が用意してくれた敵と思ってしまうし、学園の襲撃が起きても、「よく妄想したシチュエーション」として遊び場に変えてしまう。

その遊びを実現できるだけの実力がまた恐ろしい。クラスメイトをかばって背中を斬られるシチュエーションは確かに憧れてしまうけれども! 実際そんな現場に遭遇しても、クラスメイトが斬られるところを見ていることしかできないだろうけれども!

とにかくそのノリは第二巻でも継続される。

 

シドの語る妄想=現実という等式は、絶対の法則と捉えてもらっても問題はない。つまりディアボロスは復活させようとする組織はいるし、ディアボロスを倒した英雄の血だって存在する。

それらはこれまでのエピソードで良く分かった。

そしてこの第二巻では、そんな過去と密接に関わりがある聖地・リンドブルムで行われる『女神の試練』に、ローズと共に参加することになる。

ちなみにローズとは、学校が襲撃された際、シドが庇った女の子だ。もう少し説明すると、このローズは王族の娘なので権力者である。彼女は命の恩人であるシドに惚れ、王族の娘という権力を振りかざし、色々なところに着いてくる(もしくは連れ回す)。

ローズは来賓として『女神の試練』に招かれたが、シドは彼女に連れてこられたという形で聖地に訪れた。つまり彼は意図して来た訳ではない。

しかし、『ディアボロス教団』も『女神の試練』に参加しているかもしれないという情報を嗅ぎつけた『シャドーガーデン』の面々は、「さすがシャドー様、我々がやっとのことで手に入れた情報をすでに手に入れているのね!」と評価が勝手にうなぎ登りに上がっていく。

そんな彼は望まないのに『女神の試練』に参戦することとなってしまった。ただ見ていくだけで良かったと思っていたのに……できるだけ目立たない独自の美学に則り、目立たないようにその場を切り抜けようと考えたシドは、彼なりの最善策を導き出した。

この『女神の試練』というのは、聖域から古代の戦士の記憶を呼び出し、その記憶と戦うというもの。そもそも呼び出すことが難しく、呼び出した記憶がとてつもなく強い。

シドの美学によれば、勝つことはもってのほかである。相手に可能な限り花を持たせつつ、自分はできる限り無様な散り際……要はモブらしく負けることを目標としている。そもそも呼び出すことが難しく、ただでさえ名もなき魔剣師がエントリーしたということで目立っている状況を目立たなくさせるにはどうすれば良いか?

そこで彼は『シャドーガーデン』のボス・シャドーとしての仮面を最大限利用することにした。

 

もったいぶっているが大したことではない。シドが呼ばれたタイミングで、『女神の試練』の会場にシャドーが乱入するのだ。これにより「シド? そんなことよりもシャドーだろ!」という形でシドが陰に消える。

シャドーの実力を遺憾なく発揮できるし、なんかかっこいい。結果としてそれらは全て良い感じに嵌まり、シャドーの名は知れ渡り、シドの名はモブとして消えた。

そしてついでに『ディアボロス教団』の計画――それも何千年もかけていた計画が頓挫するのだから面白い。しかもかつてシャドーが語った妄想が、パズルが綺麗になっていくが如く嵌まっていき、それが形となった時に現れる物語が実に面白い。

目の前でそんな感動する物語が展開されているというのに、シャドーは「お、頑張ってんなー」というスタンスなのだから面白い。そんな『女神の試練』編が第二巻の前半でまとまっているというのも面白い。

後半は後半で、『ブシン祭』という武闘大会にシドがジミナ・セーネンという名前で参加し、独自の美学で活躍する回となっている。誰もが雑魚と切り捨てた男が、次々と強敵を倒す様に人々は熱狂、シドは熱いシナリオを演出できて大満足。読者も大満足。誰も不幸にならない幸せ回……かと思ってたんだかなぁ。

満足度の高い第二巻であった。

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