※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
探偵――死者の代弁者として。
情報
作者:杉井光
イラスト:岸田メル
ざっくりあらすじ
前触れもなく飛び込んできた依頼主は、タイ人の女の子で、彼女は二億円が入った巨大な鞄を抱えていた。
二億円を部屋に持っていたという彼女の父親は、行方が分からない。どうやら逃げてしまったらしい。そんな父親の行方と、少女の安全を守るため、ニート達は今日も戦う。
感想などなど
彩夏の飛び降りから畳みかけるように展開していく事件と、運命に必死に抗おうと、自分にしかできないことを模索した鳴海。どこか重く切なく悲しい雰囲気を感じさせてくれるミステリーだった前回。今回も、そんな雰囲気は変わらず、事件も社会の闇を色濃く投影させたようなものだった。
今回は新キャラ? というべきだろう。タイ人の少女・メオと彼女の父親……さらには二億円という大金を巡って、謎が謎を呼ぶ事件について、感想を書いていこう。
まずは事件についてざっくりとまとめよう。
一言で言うならば『会社のお金と思われる二億円を、父親が娘に託して雲隠れした事件』といったところか。実にシンプルで分かりやすい。
依頼者は『二億円を託された娘』であり、依頼内容は『父親の捜索』と『自身の安全(これに関しては、鳴海が無理矢理付け加えさせた)』。
とにかく、事件の概要だけは分かって貰えただろう。では、四つの問題点と共に細かなところを見ていくとする。
一つ目の問題点は『二億円は何処から来たのか分からない』という点。
「いや、会社の金やろ?」と思われるかも知れない。しかし、会社はそれほどの大会社ではなく、むしろ小さいと言って良い。調べる限り二億円という大金を儲けているとは思えない。
二つ目の問題点は『二億円が現金で鞄に入っていた』という点。
二億円とは大金だ。メオが持ってきた時もかなり重そうに抱えていた。そんな大金をどうして現金で一括に持っているのだろうか? 最近のお金の管理は銀行で行われるはずなのに。何処から来たのか分からないという点と繋がりそうな問題点である。
三つ目の問題点は『ヤクザらしき男達が父親を追っかけている』という点。
事件の謎を追いかけていく内に、元々メオ達が住んでいたアパートにヤクザが張り込んでいたり、企業にヤクザが出入りしていたり、元々父親がヤクザだったりなど、ヤクザとの関係性が出てくる。
これはある意味、答えとも言えるだろう。この事件は「一人の男が会社の金を横領した」という単純な事件ではないということだ。それならばヤクザなんて頼らず、警察に頼れば問題はないはずだからだ。
四つ目の問題は『父親は何がしたいのか、分からない』という点。
父親が仮に横領をしたとしよう。さて、そもそもの問題として横領する理由があるのだろうか? 話を見る限り、それほどお金に困っていた(まぁ、お金持ちではないのだが)ということもない。
さて、ややこしい事件に立ち向かう平凡な高校生・鳴海にできることはあるのだろうか?
第一巻の時点で、鳴海の成長はとんでもない速度であったが、今回はさらなる成長を遂げる。もう彼はただの高校生で片付けることはできない。
《ニート探偵》アリスの助手として活動するのだが、感情に揺れ動くことの多い鳴海との兼ね合いが上手く嵌まって、物語として面白い展開を見せてくれる。また、変な所で人間味を持って、悔しがったり、涙を流したり、声を荒げたりするのも読んでいて、一気にのめりこんでしまう原因の一つだろう。
事件の真相は、理屈では割り切れない甘く切ないものだった。