工大生のメモ帳

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さよならピアノソナタ4 感想

【前:第三巻】【第一巻】【次:な し】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

つまんない人生頑張って。

情報

作者:杉井光

イラスト:植田亮

ざっくりあらすじ

民音部の冬の予定が決まりつつあり、直巳は真冬とクリスマスを一緒に過ごすための予定を立てていた。しかし、二人の邪魔をするかのようにライブの予定が入っていて……。

感想などなど

ブログ主の認識が甘かった。少しばかり謝罪をしたい。

まず第三巻の記事を書いた時点では第四巻を読んでいなかった。大抵の場合、次巻まで読んでから感想を書くことが多いのだが、この『さよならピアノソナタ』に関しては読んでいなかった。

だからこそ、第三巻時点でてっきり「あぁ、もうこれ告白だな」と思ってしまった。いや、もうあれは告白でしょ。まぁ。「好き」って直接言葉にした訳ではないけどね? でもね?

もう好きって言ったようなもんだろ……と。いやはや、その認識が甘かった。あれを告白だとは意識せず素でやってのけたのか……第四巻を読み進めながら、「好き」という言葉が全く出てこない展開に首を傾げることとなる。

どうやら直巳はまだ自分が真冬のことを好きだと認識していないようである。ボロボロになりながら真冬と二人で夜逃げした第一巻。ライブを前に逃げ出した真冬を追いかけて見つけ出した第二巻。不安と恐怖で押し潰れそうになった真冬を抱きしめた第三巻。

……え? 気付いてないの? と。鈍感もここまで来ると残酷である。罪である。

まぁ、鈍感なだけであれば許せたかもしれない。だがしかし。その鈍感のせいで、少なくとも二人の女性を泣かせた。

千晶と真冬。ひそかに……というか隠せているようで、ドストレートに愛情をぶつけている様な気がする両者にとって、あまりに残酷とも言える展開が少しばかり待っている。

 

好きな相手に言われて、一番ショックな言葉は何だろうか。

勿論、人によってショックを受ける、受けないの度合いは異なるだろう。男性か女性か、その他細々とした状況によっても異なってくる。

第三巻にて千晶に真冬へのプレゼントを相談するという行為に代表されるように、これまで「あなたに恋愛感情はない」と相手に暗に伝えることを繰り返してきた。あまりにも心臓に悪いので、いつしか笑えなくなっていたのは気のせいではないだろう。

第四巻では、それの決定打を出してしまう。

結論から言ってしまおう。彼は真冬と千晶に同じプレゼントを渡したのだ。

よく考えて見て欲しい。自分だけの特別として考えて渡してくれただろうプレゼントが、実は別の人と同じだったということを想像して欲しい。貰って喜んだことが、馬鹿みたいではないか。

だが、二人はそんな彼を好きになった。恋愛は一種の呪いのような気すらしてしまう。

 

恋愛に失敗はつきもので、逆に失敗しないことがあり得ないとまで言える。直巳は自分が繰り返してきて失敗というものを、第四巻でようやく自覚することができた。

そう、響子先輩、千晶、真冬。その三人の想いを知ってしまったのだ。思い返してみれば、三人とも自身が抱く好意を隠す気がないことまで分かってしまう。周囲の人達からしてみれば、「え? 気付いてなかったの?」と逆に驚かれるレベル。そらそうだ。

ある意味、第四巻にしてようやくスタートラインに立ったのだ。

ここからだぞ、漢直巳。お前の父を見てみろよ、妻という大事な女性は、逃げてどっかに行ってしまった。これは血筋なのかもしれない。大切な存在はいつしか失ってしまって、失ってからどうしようもないほどに後悔してしまうのかもしれない。

運命は残酷で、直巳と真冬の距離を引き剥がそうとしてくる。バンドの関係性だってもう滅茶苦茶。四人のメンバーを引き留め続けていたのは、もしかすると直巳に対して隠していた感情だったのかもしれない。

直巳に全てが懸かっている。これまでの失敗は消せないかもしれないが、大切なものを引き留めることはできる。

やはり本シリーズは、直巳と真冬の不器用すぎる恋愛小説だった。読み終えて心に残る余韻が心地良い。読んで良かった、そう思えた。

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