※ネタバレをしないように書いています。
霊感サスペンス・ミステリ
情報
作者:ヤマシタトモコ
試し読み:さんかく窓の外側は夜 10
ざっくりあらすじ
先生とともに閉じ込められた冷川を助けに、三角、迎、英莉可、逆木らは家の奥へと進んでいく。それぞれが自身の役割を理解し、できることをしていく。冷川を救うことはできるのか。
感想などなど
人を傷つけるよりも、救うことの方が難しい。
人から何かを奪うよりも、守ることの方が難しい。
人を呪って縛るよりも、愛を注ぐ方が難しい……悲しいがこれは事実なのではないだろうか。三角が冷川に向けた優しさは、一種の暴力というように冷川自身が語っている。ただ優しくしていれば救われるという安直さは、この物語においては通用しない。
さらに三角の優しさが別の者に向いた時――冷川ではなく名前も知らない一般人を三角が救ったことで――二人の間には致命的な溝ができてしまった。「運命ではなかった」という台詞の悲痛さが、その溝の深さを一言で語るには十分過ぎるくらいの破壊力を持っている。
トロッコ問題という有名な思考実験がある。簡単に言うと、「どちらかしか救えないという状況下で、あなたはどちらを救いますか?」という内容だ。この実験において重要なのは、自身の選択に応じて必ず誰かは死ぬという点が重要になってくる。
冷川と一般人では、この選択で誰も死なない(可能性が高い)選択をすることができた。だから三角はその道を選んだ。冷川は自分の身を自分で守ることのできるだけの力がある。たから冷川か一般人のどちらかしか救えないという状況で、一般人を救う道を選んだ三角を責めることが自分にはできない。
ただこの選択によって、冷川は先生の家に閉じ込められることになるのだが。
第九巻で対先生包囲網におけるそれぞれの役割が確定した。
迎は、幼い頃の姿に戻り自分の殻に閉じこもってしまった三角を、対話を通じてその殻から出すために奮闘している。冷川の殻はあまりに分厚く、それでいて強固だ。しかし霊とも対話を通じて除霊してしまうような優しさを持った彼ならば、きっとできると信じている。
英莉可は、護衛の逆木と一緒に脱出経路の確保をしていた。霊が蔓延る先生宅には、彼女の父親もいた。もう人とは思えないような姿をしていたが、そいつを払ったのは娘の英莉可ではなく逆木だった。彼がいるなら、英莉可はこれから先も立派に生きていける……そんな気がする。
三角は先生と対峙していた。おそらく先生の呪いに対して、強い耐性があるのだろう。迷宮のように入り組んだ家でありながら、まっすぐ先生の元に辿り付くことができたのだ。そして先生も、彼と近づくことを恐れている節がある。
これまで散々匂わされてきた二人の関係性は、血の繋がった父と息子なのだ。
……まぁ、別に隠されていたような感じはない。読者からしてみれば明らかだった。しかし、母と息子を置いて出て行った父が、その過去を呪って思い出せないようにしていた理由については、分かっていない者が多かったのではないだろうか。
その理由が、三角と先生の対話を通じてはっきりとした形になっていく。先生の心に空いた空白を、憎しみで埋めていくような物語に対するアンサーが描かれていく。これから先も生きていく三角や冷川、先生らが、どのように生きていくべきか?
どんなに拒絶されようと諦めない。最後の最後まで藻掻き続けるという三角の解を、自らの行動で証明すべく、冷川に向けて一度ははねのけられた手を伸ばし続ける。その手を彼は取ることができるのか?
印象に残る台詞が多い第十一巻。あなたもきっと忘れられない台詞の一つや二つが出てくるであろう。何度も読み返したくなるような漫画だった。